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393.幻像


『お初にお目にかかります、ね?』


 にっこりと笑い少しだけ首を傾げる仕草がなぜかアメジストを思い出させる。胸の高鳴りを抑えるように一度冷静になろうと深呼吸をしゆっくりと瞬きをした。そして改めて自分も挨拶をしようと顔を上げたその時、ハッとする。


「こちらこそ、お初にお目にかかり……あっ、あの、ベリル様」


『うふふ、落ち着いたようですね?』


「まさか、その光」


『えぇ、そうです。今あなたが見ている私は、幻に近いものでしょう』


「……では、貴女様は」


『オニキスから聞いているのですね。(わたくし)の身体は今もこの扉の中で――眠りから覚めずにいます』


 ジャニスティが挨拶の途中で言葉を詰まらせた理由。それは彼女の周りが神々しく金色の光粒を帯びているのに、気付いたからである。ベリルは彼の感じたであろう心の内を汲み取り先に説明をし、現在の状況を明かしたのだ。


「しかし、幻像とはいえ今こうして私の目の前に貴女様がいる。それは保たれた精神だけは、身体の外へ出られる……形となれる。そういう理解でよろしいでしょうか」


 たくさん知りたい事はある。しかし彼の感情は現実に追い付かず今は自分の持つ知識から起こり得る事象を何とか伝え聞いてみようと厳しい顔で述べ、質問をした。


 するとまた想定外な答えにジャニスティは全身が身震いするほどに、驚愕する。


『そうですね……おおよそは感じたままで、それで良いと思います。でもね、ジャニスティさん。この“眠った心”を起こしてくれたのは他でもない……私の可愛い愛娘――アメジストなのです』


「お嬢様が……なぜです!? 貴女は眠りについてからずっと、アメジスト様とは顔も言葉も交わしていないはず。それなのに」


 動揺する彼の体を温かな風が抱きしめる。

 上昇し始めていた気持ちをグッと抑え、息を吐いた。


『ジャニスティさん、あなたのおかげです。此処にアメジストを案内し中へと(いざな)ってくれましたね』


「あれはやむを得ず、様々な事情が……」


 彼はとっさに口籠る。


 花の謎についてまだ真実が掴めていないこともあるが、しかし。


 その真意はオニキスを魔力で操ろうとし婚姻関係になれなかったものの後妻と公言し居座ってきたスピナはアメジストには継母としての立場を利用し酷い仕打ちと言葉での支配、さらには屋敷の者たちへ恐怖心を植え付け独裁を続けてきた。


 いない間に起こった最悪の状況を聞いた時に受けるベリルの衝撃を思い、はっきり答えることが出来なかったのだ。


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― 新着の感想 ―
ジャニスティ様の思慮(:_;)深く優しい心にウルウルしてしまいます(:_;)
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