388.独白
あの時はまだ此処が『ベリルの眠る場所』とは当然知るはずのないジャニスティが、なぜか? ベルメルシア家の血族同士だけが通じ合う何かがあるのではと彼女へ、示唆していた。
彼に何らかの“力”が動いていたからなのか?
未だその推測自体に彼自身違和感を持つこともなくむしろ、気付いてすらいないのである。
そして隠し扉へ入ったことは二人とクォーツの秘密であると、厳守。そのような理由もあり周囲の目も気にして互いに話す機会もなく、隠し扉に入った日のことについてアメジストがどのような体験をしたかなどの情報共有はまるで、出来ていない。
そのため慌ただしく過ぎ様々な出来事も起こったこの数日間で彼は、良い方向にも悪い方向にもなり得る想像や懸念を抱いていた。
コツーン、コツ。
しばらく歩いたところで「あ……」と彼は何かを思い一度、立ち止まる。
「お嬢様に申し上げた三つの注意事項。しかし此処がベリル様のお力が張り巡らされた場所だとするならば――」
再び歩き出した彼の足取りは少しだけ変化し「私ごときがそこまで過剰に心配する必要もなかったのだな」と目を細めフフッと、微笑する。
そう思い直したのには昨夜オニキス、エデとの会合で極秘とも言える事実を明かされたことにあった。その話の中で「書庫にある隠し扉内を守っているのがベリルだろう」というオニキスの“願望”を聞いたジャニスティ。
アメジストに危険はなかったのだろうと内心ホッと、胸を撫でおろしたのだ。
コツーン、コツン。
変わらぬ歩幅で歩きながら自身の事も振り返るように自然と思いを巡らせるジャニスティは、一言。
「あぁ、そうだよな。何があろうと、私はオニキスのベルメルシア家に抱く志と想いを信じ、ついて行くだけ」
そう呟きフッと、微笑んだ。
すると。
“ふわぁ~……”
「――ッ!?」
(何だ、今のは一体)
「風が吹いたような……」
そう言うと自分の頬に右手のひらをそっと当て視界を無くし集中しようと彼はキラッと光った天色の瞳を、瞼で隠す。
視覚から取り入れる情報は何もない。熱く身体中を流れる血液を感じ研ぎ澄まされた感覚に時の流れは止まっているようだった。
そして――。
『もっと……あなたの想いを。“声”を聴かせて』
(心の中で、聴こえる……)
すぐに何かを思いジャニスティは頭だけを左右に動かす。
『あなたの言葉を――“心”を』
優しく柔らかい囁き声が耳をくすぐる。
それはまるで彼の意識へと流れ込み、触れるかのように。




