385.感知
手に持った本――『花の舞う言葉たち』を見つめ、思う。
「この花には『愛や心』といった優しい表現をする言葉が書かれていた」
そこに書かれた花言葉をそのまま受け止めるのではなくそこから感じる、本当の意味を探さなければならない。
今はまだ敵なのか味方なのかも判らない、オレンジ色のマリーゴールドをベリルの傍に生けた人物の特定に繋げ見つけ出し話を聞く。あわよくば目的も知りたいと彼は、思案していた。
(少なくとも、茶会前日の宵までに何とかしなければ)
ベリルが息を引き取った際に枕元へ置かれていたというオレンジ色のマリーゴールド。その目的に辿り着くため少しでも手がかりを見つけるのだと、ジャニスティは改めて決意の心を奮い立たせる。
(旦那様の考えを信じ、想いを尊重したい……となればベリル様は仮死状態であり死んではいない。未だ此処に“眠り”生き続けている)
「そして、もう一つの意味は『予言』とも書い…………ん?」
本に書かれた花言葉を思索していた彼は、ふと閃く。
「もしや、アメジスト様の突然の魔力開花は」
(何らかの理由で閉ざされていたお嬢様の魔力が、この隠し扉へ入ったことをきっかけに、解放する糸口となったのだとすれば)
――この隠し扉内に、答えへと繋がる何かがあるかもしれない。
「ベリル様どうか、私の入室を……今一度お許し下さい」
もちろん今この隠し扉の中へ入ることで解決できる何かを発見できる保証はない。それでもジャニスティは全身を流れる血液の巡りが活動的になるのを感じまた「行かなければならない」という説明のつかない思いに、駆られていた。
コツ、ン……ガチャ…………キィー……。
「――開い、た」
一言、彼の手は隠し扉を開けた。鋭く美しい眼光はその先にある世界を眺め、見渡す。心臓はこれまでに感じたことのない窮屈な鼓動の速さで動き戸惑う程である。
その瞳が映した“景色”はどんなものか。
以前、危険がないか調査へ入った時と同じなのか。
はたまた、見たことのない世界が広がっているのか。
期待と不安が入り混じる感覚に珍しく足が竦んだ彼は片手で持つ本をぎゅっと抱き「どうか教えてほしい」と、願う。
迫る、朝の業務時間前。
ジャニスティは当時ベリルがどのような状況で「息を引き取った」とされたのかを知るため、そして“眠りについた”と言われる事象が何だったのか? その声がもしかしたら『聴こえる』かもしれないと歩き出す。
真実を、明らかにするために。




