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383.空気


 そっと右手で触れた重厚な隠し扉は朝陽の美しい光にキラキラと照らされていた。そこはまるで磨かれた鏡のように彼の姿がうっすらと、映っている。


「なんだろうか……いつもと雰囲気が違う」


 書庫内の隠し扉――数ヶ月前に見つけてからほぼ毎日見ている。しかし今日は空気が違うと、感じ取っていた。そして彼はそこに“会ったことのないはずの存在”を見出すように、現実には“見えていない者”へと思いを馳せ隠し扉に向かいこう尋ねた。


「なぜ、私のような者を」


 オニキスが話したように『隠し扉への出入り許可を出せるのは“ベルメルシア家の血を引く血族者”だけ』だ。そのため中へ入るどころか隠し扉を見つけるには言葉だけでは通用しない(要するに無理に言わせても扉は見つからない)、本心からの許可が必要なのである。


 彼はふと自分を心配し部屋へと訪れてくれたアメジストの顔を、思い浮かべる。そしてあの時、継母スピナの声と突然の訪問に危険を感じ二人が遭遇するのを回避するために咄嗟の判断で此処((隠し扉))を彼女へ案内し通らせたことを、思い出していた。


「そういえば、あれからお嬢様へ聞きそびれていたが」


(この隠し扉内の通路を通り、無事にお部屋へと戻られたはずだ。アメジスト様は、中でどのような光景を感じ見たのか)


「その後、通常通りお元気そうなお姿で過ごされているのを確認している。この通路にはやはり私と同じ光景をご覧になり、無事何事もなく近道として抜けれたのだろう……」


(いや、あの時はまだ、お嬢様は魔力開花を成されていなかった)


 そう考えると自分とは違う感覚で歩いたのかもしれないと小さく呟きながら目を閉じるジャニスティ。ひんやり冷たい扉にゆっくりと、自身のおでこを当てた彼は全身の意識を扉の中へと集中させていく。


――感じる……微弱だが、優しい魔力を。そして、聴こえる……。


 そのままの状態で数分程、経っていた。


 誰もいないはずの書庫内。

 目を開けた彼は片膝を地面へつけると隠し扉に向かって名を名乗り、話しかけ始める。


「……申し遅れました。私はジャニスティと申します。現ベルメルシア家当主オニキス様より、アメジスト御嬢様を護る役目を仰せ付かっております」


 それは無意識に彼の口から自然と発せられた、言葉。そして現当主オニキスへ許可をとらず隠し扉の中へと立ち入ったことを、陳謝した。


 この時思い出していたのは昨夜の会合にてオニキスが彼に話したベルメルシア家の内情についてだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] とても神聖な感じがいたします(#^.^#)
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