377.驚喜
「ぅにゅあ……!」
彼女から放たれる気に全身を包み込まれる様な温かさを感じピクリと反応を示したクォーツは、驚きと喜びが合わさったような表情になってゆく。その隣で黙って佇むアメジストもまたラルミが持つ優しさ溢れる魔力を、感じ取っていた。
「ラルミは、とても温かな力を持っていたのね……」
「アメジスト様、驚かせてしまったかもしれませんね。どうかお許しください」
「そんなことないわ! 私の成長が……目覚めが遅すぎたことが原因です。これまでずっと、周囲の魔力を感じられず何も出来なかった。そんな私が悪いのです」
力を開花させてからまだ時間が経っていない彼女でもこうして生活する中で様々な魔力が道を作り微風を起こし水のように流れていると感じ、次第に動きが解るようになり始めていた。
そして自分の事を大切に思い傍にいてくれる者たちがこれまで、大きな“力”で包み込んでくれていると初めて知ったアメジストは落ち込み、申し訳ない気持ちにもなるのである。
(すぐに追いつけるとは思っていないの。でも、それでも――)
彼女は『ベルメルシアの血族が受け継ぐ力』を感じるたび母ベリルへ少しでも近づきたいと焦りにも似た思いが、強くなってゆく。
「ご自身が悪いなどと、そのようなお考えを持ってはいけませんわ」
「んに! お姉様は悪いないですの」
この状況をどれだけ理解しているのか? お手伝いのラルミが優しく声をかける言葉に続いて妹クォーツまでもが元気づけようとしてくれている。そんな二人の気持ちが嬉しく彼女の瞳は涙を浮かべた。
「貴女様も、素晴らしい力を秘め、そして発揮できることでしょう。自信をお持ちになってください」
「ラルミ、クォーツ。ありがとう」
(私は、今出来る限りのことを。今まで魔法のない中で培い身につけてきた能力を最大限駆使すれば、きっと魔力も上手に使えるようになるはず!)
「頑張らなきゃ」
新たな挑戦をする時は誰だって不安を抱えるものだ。
そうして見守ってきた大切なお嬢様であるアメジストの決意を感じたラルミは再び穏やかな声で、その揺るぎない忠誠心と不安定な彼女へ安心感をと微笑み言葉をかけた。
「ご安心ください。何時如何なる時も、必ずお傍に仕えています」
(お嬢様の心は、生前のベリル様が目指しておられた夢未来と、同じ方向を視ておられる)
「うん、とても心強いです。ありがとう、ラミ」
にっこりと笑い安堵の表情を浮かべた彼女はふと、時計に目を向けた。




