375.意欲
それからしばらく記憶を辿ろうとしていたアメジストだがいつの間にか、眠りにつく。
◇
――夜が明けて。
彼女の部屋にはいつもの朝が、訪れた。
コン、コン、コン、コン。
「おはようございます、アメジストお嬢様。朝のご挨拶に参りました」
「おはよう。いつも、本当にありがとう!」
ゆっくりと扉を叩く音に外から聞こえてくるハキハキとした声はいつも通りの同じトーンだが、しかし。その奥に感じる柔らかで安心できる声色をアメジストの耳は、覚えていた。
「いえ。恐れ入り――」
ガチャッ!!
毎日決められた時間の決められたセリフで挨拶に来るお手伝いへかける彼女の言葉。この日はいつも以上に明るく弾むように感謝の心を伝えたアメジストはその瞬間、部屋の扉を勢いよく開ける。
その理由は――。
「ラミッ!」
「えぇ!?」
「うっふふ! 嬉しい……今日もラミが来てくれたのね!」
「あぁ、はい。あの……」
そう、昨日の朝に続き部屋へと挨拶に来ていたのはお手伝いのラルミ。アメジストはそれにすぐ気付き嬉しさのあまり彼女の事を愛称で呼び、無意識に行動をしていた。
「今日も、少しだけお時間あるかしら? お話したいことがあるのだけれど」
「私のような……あっいえ。すみません、その。私に、でございますか?」
ラルミは「私のような者に」と自分を卑下してしまう言葉がなかなか直らずついつい、発してしまう。その慌てる姿にアメジストは眉を下げ微笑み「そんなに謝らなくてもいいわ」と彼女の手を取り優しく、握った。
「――っ?!」
「ラミ、あなたにしかお話できない……聞けないことなの!」
「お嬢様……もちろんです!」
亡きベリルを敬慕する思いと同じくらいアメジストを心から敬っているラルミはその言葉に心身が震えた。
そんな彼女を部屋へと招き早速、話し始める。
「ありがとう、ラミ。実はお母様の――ベリルお母様のお話をもっとお聞きしたいのです」
「それは……」
(とても真剣な眼をなさっている)
昨日の朝ラルミから聞き知ることの出来た素敵な母の姿。
それは父オニキスから聞いていた話とはまた違う視点(お手伝いたちから見たベリル)の話であり、とても貴重な時間だった。
――私も皆様の力に……強くなりたい!
「お母様は、どのような魔法を使っておられたのでしょうか?」
アメジストは今、意欲に満ち溢れていた。
“独り”ではない、明るい朝を迎えていたことも彼女の気持ちを押し上げ積極性を増すことに繋がったのかもしれない。




