366.湯浴
「おっるごー♪ オルゴールる~♫」
少しだけ悩んでいたアメジストは再びクォーツへと目を向け、笑う。その小さな両手のひらへ大切に風簫を乗せ歌う妹があまりにも幸せそうな笑顔で、可愛かったからだ。
そして「言葉の壁を案ずるよりも行動」と思い直す。
「クォーツ、オルゴールは楽しいかしら?」
「ぁい! お姉様、るるる~んるん♫ ですのぉ」
「え、るるる……? うふふ、とても素敵ね」
(良かった、たくさん笑ってくれて。本当に可愛い子……)
朝、学校へ行く馬車の中での事もあり多少なり心配していた彼女であったがこうしてクォーツの笑顔と喜ぶ姿を見ることができ内心ホッと、安堵していた。
「クォーツ、少し待っててね」
「ふあぁ~いッ! るるん、るる~♫ おるごぉー……」
クォーツが満面の笑みでふにゃんとオルゴールの音色に聞き入る時を過ごす間に彼女は、湯浴みの準備を始めようと動きだす。
(えっと、袋……)
自身の洋服は風呂近くの支度部屋に置いてある。
今はクォーツの着替えを揃えようと衣類や道具が入った布袋を手に取った。それは先程ジャニスティから渡されていたクォーツの持ち物。アメジストは勝手に開ける訳にはいかないと一言「お洋服準備をするわね」とクォーツへ声をかけた。
シュル……ふわっ。
「まぁ! なんて可愛らしい」
(なぜかしら、見かけよりもたくさん入るみたい?)
数日分の普段着に加え薄く柔らかい布地が使われた、女の子らしい寝間着。他にも文具品や髪飾りも入っている。
「クォーツにぴったり、素敵なものばかりだわ」
(でも、一体どうやって?)
可愛らしい洋服などの数々。
それを昨夜遅く、しかも短時間でどのようにして取り急ぎ見繕い揃えたのかを聞かされていない彼女はふと、不思議に思ったのだ。
(また明日、落ち着いたらジャニスに聞いてみましょう)
「おいで、クォーツ。そろそろお風呂へ行こうと思うの」
「おっふろぉ~? になぅ~? 行きますのぉ―」
手際よく準備をしたアメジストは優しくクォーツを、呼ぶ。屋敷には大きな浴場もあるが彼女にとってはこの部屋が一番、気の休まる場所である。その為いつも自室にある風呂場にて、湯浴みをしていた。
キィ……カチャ。
「んなゅ! 『おふろ』解ったのです!」
「良かった……」
「ハイ! お風呂は元気になるですの♪」
「元気に?」
美しき純白の翼を持つ天使のようなレヴシャルメ種族。羽を休め力を回復するのに湯浴みをするということがこの後クォーツの話で、判った。




