365.風簫
「♪……」
「になぅ? きこえなくなったのです」
「ぁ、ウフフ。これはね、こうするのよ」
キュ……キュ……キュ――――♫♪
「ふにぁ!? またきこえるのです! おねぇさま、すごーの」
「え?」
アメジストを見つめるクォーツの瞳は感動でキラキラと、輝く。
「どうしてですのぉー♪ 不思議なのです」
「ふふ、ありがとうクォーツ。でも私がすごいのではないのよ。この楽器は“オルゴール”といってね、ここを回すの」
「ふぃわ~……こう、ですの?」
「そうそう! 上手ね」
――♪~~~♫~~♪
「んきゃあ!! きこえるのですー!」
新しいことに出会い喜びと期待で溢れるクォーツの声をアメジストは愛おしく思いながら、微笑む。
「うふふ、良かったわね。クォーツは、音楽……解るかしら?」
「んな? おー」
「あぁ、いいの。じゃあ少しだけ、お話するわね」
それからゼンマイ仕掛けのオルゴールを手に取り小箱の中でどのように回り鳴っているのか、『音階、曲、音楽の意味』を分かりやすく簡潔に説明を始めた。その話にとても興味を示しあっという間に“レヴ語”との言葉のすり合わせも終え理解をしたクォーツの賢さにはさすがのアメジストも、驚く。
「音楽! とっても好きですの~♪ お姉様、また教えてください」
「えぇ、またお話しましょうね」
兄弟、姉妹のいないアメジスト。
頬を桃色に染めはしゃぎとても嬉しそうな妹クォーツを見つめる彼女の心もまた、幸せな気持ちになる。十年間はジャニスティの支えがあったとはいえ生まれてからこれまでずっと“一人っ子”で過ごしてきた彼女にとってこの瞬間は、初めての経験であった。
「あ、そろそろお風呂へ行きましょうか」
ふと時計に目をやり、気付く。
時刻は午後十時――この日も様々な出来事で食事やその他もろもろ、いつもとは違う流れで進んでいった一日。
「おふろぉ~?」
これまた不思議そうな顔でアメジストの言葉の意味を探すクォーツは首を真横になる程に、傾げる。
「あぁ、あのえぇっと……温かなお湯で身体を綺麗にするのだけれど……」
(レヴシャルメ種族は、お風呂ってなんと表現するのかしら?)
朝の食事時にジャニスティも感じたように“食べる”との行動や“風呂”、“睡眠”についても。それはレヴ族が生きていくために必要とするものなのか?
言語以外でも他種族間の溝はある。
特に謎多きレヴシャルメ種族であるクォーツの考えや行動を理解するにはまだ時間がかかるのかもしれないと彼女は、感じた。




