363.散会
二人の会話にピクリと反応を示したジャニスティは感情を顔に出さぬよう努める。そんな彼の内心はこの十年で一番という程、荒れていた。
「今回カオメド氏が起こした街での一件は、由々しき事態。その上、ベルメルシア家へ乗り込もうというのであれば尚の事。彼がどのような弁明をしようとも、許される行為ではありませぬぞ」
「あぁエデ、君の言う通りだ。このまま彼の好きなようには絶対にさせない」
「ですな。さて、旦那様。私は通常通り動きます故――」
「旦那様。そしてエデ。私も、精一杯……力の限りを尽くします」
エデとジャニスティの言葉に頷き応えたオニキスの目頭は、熱い。それはこれまで以上に彼らの事が心強く感じられたからである。
――この街を、皆の生命を……家族を。
「必ず、護る」
ベルメルシア家当主オニキスの言葉が最地下の部屋に、響く。
淀みのない透き通るような声と奥深い赤茶色をしたその鋭く美しい瞳からは揺るがぬ固い、決意が見えた。
◆
どんなに話術に自信があり技術の腕が良くとも、全ての商談が必ず成功するという保証などこの世界にはない。世の厳しさを知りそれでも強い意志と覚悟を持たなければ、商人としての仕事は辛く苦痛に感じ、その時点で向かないであろう。
そんな厳しい世界でカオメドは常識的な禁忌を冒し、あろうことか周囲の者たちを魔法で従わせるという悪質な商法で取引先や顧客を取っていることが、今回街で行われた祭典での一幕により露わになった。
「相手の感情や心理状態を読み、言葉巧みに話を進める。それは間違いなく彼の能力。だから十分、商談に必要な話術を持ち合わせているはずだ。しかし、その技術がありながら、なぜ魔法を使う必要があるのか」
魔力を持たないオニキス。
それでも彼は自身の持つ実力でコツコツと働き現在は街一番と言われる程に会社を大きくした。
ベリルがいなくなった後は皆の協力で当主としての業務も完璧にこなしベルメルシア家を死守。周囲からは全幅の信頼を寄せられるまでの存在だ。
懸命に働き人々の為に尽力してきたオニキスにとってこの世にカオメドのような者がいること自体が信じられず、強い衝撃を受けている。
その彼が起こした異常行動。
若き権力者として噂になっていた彼の裏の顔を知った今、他の街でも同様に騙された者がいるのではないかと考え心は痛みまた、商品の流通を扱う同業者――つまり“商人”としても理解し難く、オニキスは憤慨する思いであった。
◆




