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357.推察


(エデの言うように。今日の自分は少々気の緩みがあるようだ)


 頬はまだ赤いが固い表情になったジャニスティは「申し訳ありません」と頭を下げた。その姿にオニキスとエデは再度顔を見合わせ、笑い合う。


「ははは、ジャニス。謝ることはないさ。君は本当に真面目なのだな」

「いえ、そのようなこと」

「いいや。私は相手が誰であろうと、お世辞など気の利いたことは言えないからね。本気でそう感じている……だからこそ私は自分の選択が正しかったと心から思えるのだよ」


「旦那様……恐悦至極に存じます」

 深々と再度頭を下げたジャニスティの胸中は嬉しさが込み上げる。



――ベルメルシア家当主が選んだサンヴァル種族である“ジャニー”。


 何気ない会話にも思えるがオニキスの言葉にはこれまで口に出したことのない強い思いが、詰まっていた。


「そう固くなるな。さて、話の続きに戻るが、花の知識が豊富なようだな、ジャニス。今この話を聞き何を思ったのだ?」


「はい」


 この部屋には時計が置かれていないが研ぎ澄まされた感覚の中、夜も更け時刻を気にし始める頃になってきたことに各々、感じる。ジャニスティは伝えるべき自身の思いを端的に、話す。


 オニキスが話した内容には、ジャニスティが気になる部分があった。それはベリルがアメジストを身籠り出産するまでの約十ヶ月の間、突如様々な身の上話やベルメルシア家の秘密を話したという事についてだ。


 まるで彼女は、自身がいなくなることを、予期していたかのように。


 当時、悲しみに打ちひしがれるオニキスの視界に入ったのがオレンジ色のマリーゴールドだったと聞いた時、ジャニスティの頭の中では見つからなかったピースがカチリとはまったような感覚になったのである。


「そのマリーゴールドの花……私は、スピナ様がベリル様の出産祝いに持ってきたとは、どうしても思えないのです」


「坊ちゃまがなぜ、そうお考えになられたのか……何か根拠がおありですかな?」


「そこまでは、まだ。しかし先程、出産までの数ヶ月間にベリル様が旦那様へ伝えたというお話を聞き、そう感じました」


 エデの質問にジャニスティは間髪入れず答えその様子をオニキスはじっと見つめ、聞き入る。


 そして――。


「ベリル様ご自身の希望であり、恐らくそれは信頼の置ける何者かに事前に依頼され、用意をさせたのではないか、と」


 そう推察されるのだと言うジャニスティの口調はとても強く、説得力のあるものとなっていった。


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