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352.震駭


 覚悟が伝わるオニキスの言葉はジャニスティとエデの心に響き渡り深く重く、沁み入っていく。


「承知しました」

「私も承知しました、旦那様」


 返事をしたエデ、そしてもちろんジャニスティ。

 二人は順に声を、発する。


「では、スピナ様の思い付きという私の考えですがな。あの方が欲しているのは――“ベルメルシアの受け継ぐ力”だったのではないかと」


「エデ、その推測……私もそう考えていた。そして、これが一番言いづらい事なのですが」


 ジャニスティは「冷酷と言われ育った自分だからこそ、このような酷い考えを持ったのかもしれません」とゆっくり、言葉を続ける。



「スピナ様は、ベルメルシアの血族だけが持つ力を――ベリル様の“命”を奪うつもりだったのではないでしょうか」


「……ま、さか……そのような」


 オニキスはその意見に、震駭(しんがい)した。

 なぜならその“冷酷だ”とジャニスティ自身が言いながらも告げた言葉に否定の感情を、持てなかったからである。それどころか薄靄(うすもや)がかっていた自身の心の内が今はっきりと見え、大切な何かが現れるような感覚になっていた。


「坊ちゃまのお考えですと、フォル様の力によりベリル様がベルメルシア家の庇護下に置かれ、計画が外れた。しかし、咄嗟に思いついたのがその新たなる血族である命――“アメジスト御嬢様”を奪うこと」


「考えたくはない、思いたくなどなかった……だが、旦那様やエデからの話、私が朝に隠れ聞いた密事。そして自分がこの目で見てきた十年間、奥様としての権力を利用し、その異常なまでの御嬢様へ対する継母としての仕打ちが……!」


 ジャニスティがベルメルシア家へ来てからはその脅威から何とか大切な御嬢様であるアメジストを護ろうとしてきた彼であるが、しかし。あまり出過ぎたことも出来ない立場であることは重々、理解していた。


 それでも、スピナが嫌がる程アメジストを護るために使われるジャニスティの魔力は日に日に、強くなっているのだ。


――それは、彼自身も気付かないうちに。


「なるほど」


「うむ、あり得ない話ではない……そのベルメルシア家の力を手に入れるため邪魔だったのが、まずは私だったという訳か」


 オニキスは魔力を持たずとも普段はフォルの守りに加えて彼自身も警戒を怠らず下手には近付けないことを、スピナも解っていた。そのためベリルの死を告げた瞬間が好機とばかり例の“魔毒”を刺したのだろう。


 しかし事態はスピナの思惑とは別の方向へと、進んだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] 凄い!! こういう『下敷き』だったのですね!!
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