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350.落胆


「しかしだ……当時ベリルの夫としてベルメルシア家へ入ったとはいえ、短い期間の親交である私を、皆がベルメルシア家の新たな責任者と認め、前当主ベリルへの思いと考えを受け継ぐと決意したことに、理解を示してくれた十六年もの間。蓋を開けてみれば、信じた当主が毒に冒されていたという事実だ」


「旦那様……そんな、屋敷の皆は貴方の人柄を知っています。だからこそ、あのようなスピナの威圧にも負けず、ベルメルシア家を共に支えていこうと残る者たちが、あれだけいるのですから」


 ジャニスティは強く主張する。

 屋敷を守る――その心は自身も揺るがない思いだからであった。


「そう、本当に感謝の思いでいっぱいだよ。だがスピナを側に置いている現実、それが原因で屋敷全体を暗闇へと……皆には随分と辛抱をさせてきた。そのような期間を思うと、私は――」


「そのような事、考えてはいけませぬぞ旦那様」


 オニキスは自分だけが苦痛を伴うのであれば何も問題はなかったが、と呟くがしかし――その“自己犠牲”で解決させるような考えがそもそも良くないのだとエデは、注意する。


「エデ、私は。敬愛するベリルに胸を張れるようなベルメルシア家の“当主”に、なっているだろうか」


「えぇ、ご安心を。貴方様はここまでよく頑張ってこられた。寝る間も惜しむほど勉学に励み働き、ベルメルシア家とこの街の為、日々懸命に尽力なさってきたこと。そのお姿があったからこそ、スピナ様の脅威があろうとも皆は“オニキス”という人物を信じ、ついてきたのでありましょう」


 彼は優しく笑い「フォル様もそう仰るはずですがね」と、当主を諭す。 


「いつもすまない、エデ。感謝している」


「いえいえ、それに旦那様。貴方様には太陽のように明るく、そして聡明で慈悲深く温かい……ベリル様の想いを心で受け継ぐ、素敵な御嬢様が傍におられるではないですか」


「あぁ、あぁそうだ……そうだな。私には、守るべき“光”((生命))がある」

――ベリルの残した宝、可愛い愛娘(アメジスト)がいるのだから。


 三人の呼び合う名や口調は次第に『ベルメルシア家』での会話へと、戻っていく。それは特にジャニスティが張っていた心の壁が自然と消滅したことを、意味していた。



「今の話を踏まえ、私の想像……考えを述べさせて下さい」


「全てを、聞かせてくれ」


 答えるオニキス、そして鋭い視線で頷くエデ。



 気合を入れ息を吐いたジャニスティは「有り得ない推測と思われるかもしれませんが」と、話す。


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― 新着の感想 ―
ここまで読ませていただきました。クォーツを懸命に助けようとしたジャニスティ、その彼を助けたアメジスト、そうした中でできた絆を、『ベルメルシアの瞳』が見続けていたということですね。 そして、ジャニステ…
[一言] 緊迫しながらも優しい空気感を描けるのは凄いです!!
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