35.一緒
ジャニスティは自分の周りをついて回り、すっかり懐いた可愛らしいクォーツのぷにぷに頬に触れ抱き上げると、続きを話す。
「アメジスト様の大切な“家族”……可愛いクォーツも、私の命を懸けてお護りします」
「うふっ、可愛い同感! でもジャニス、幸せは三人一緒で、ねっ」
「んあう~♪」
――パァ~!!
クォーツの力はまだまだ未知の世界だ。ベッドの部屋が一瞬美しい光に囲まれキラキラと、輝いた。音色のような声を発するクォーツの言葉ひとつひとつが、ジャニスティとアメジストの心を癒やし笑わせてくれる。
「綺麗……すごく素敵だわ」
アメジストはそう小さな声で呟くと、クォーツから放たれた宝石のようなその輝きに瞳を奪われ、見惚れていた。
カチャン。
「お嬢様、どうぞ紅茶が入りました」
ソーサーにカップを置く音と同時に甘く優しい香りがアメジストの胸を高鳴らせる。そして大好きな苺の果肉を見つけるとにっこり笑顔。ジャニスティたちが部屋を出た少しの時間、一人になった時に感じた不安は一気に消え去っていった。
「では、もう一つお話を。明日までに解決しなければならない事があります」
ジャニスティはゆっくりと口を開く。
穏やかなお茶の時間、テーブルに並んだ三つのカップ。ジャニスティはいつもダージリン、もう一つはクォーツのために作られたベルメ苺の美味しそうなジュースだ。クォーツはそれを嬉しそうに飲み始める。
「えー……っと?」
アメジストは少し考えた後に、やっぱり分からないと、彼に答えを求めた。すると顔色ひとつ変えずに真剣な表情で答えが返ってくる。
「――言葉、です」
「あっ」
そう、クォーツは言葉を話せない。
楽しい時間が彼女には幸せ過ぎて、忘れていた。
「これから先、レヴシャルメ種族という事実を知られてはならない。此処で過ごし生きていく以上、人族と同じ言葉を話せなければならないのです」
「そうね」
教育はさほど難しくはない。ただ一から教えるとなれば話は別である。
クォーツの存在を隠せたとしても明日の朝までだろう。それまでにひと通りの言葉、ベルメルシア家での生活規則を教え込まなければならない。
二人は紅茶を一口飲み頭を抱える。すると心の奥をくすぐるような高い声が聞こえてきた。
「あめじゅと」
(エッ!?)
「ク、クォーツ今、何と?」
(人族の言葉を、発音した?!)
「にゅ! じゃにってぃ」
それを聞き驚くアメジスト。対してジャニスティはフッと笑い安堵の表情を浮かべた。




