表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
346/471

346.本性


「エデ……」


――『大丈夫だ、必ず上手くいく。だからジャニー、自分を信じて思う通りにやりなさい』


 エデの柔らかなその微笑みから思い起こすのはあの夜、美しい漆黒の翼を羽ばたかせ勇気づけてくれた時の言葉、偉大な姿だ。


(貴方はいつも厳しく指導し、そして優しく……私の成長を見守ってくれる)


 彼がいるだけでジャニスティは安心できる。それは自分の師を敬う気持ちを持っているだけでなく心の奥では無意識に父のようにも思い、慕っているからだ。


(しかし、いつまでも頼っていてはいけない)


 そんなエデの笑みに応えるようジャニスティも一瞬だけ、微笑する。そして天色(あまいろ)の輝きに深みを増した綺麗な瞳に、力を込めた。


「オニキス、私もベルメルシア家をとても大切に思っている……その上で、裏中庭で見聞きした事実を、そのままお伝えします。スピナ様の隠してきた、本性だと思われる話です」


 ジャニスティは話し出せなかった――密会現場でスピナがカオメドへと漏らしていた密事について、語り始める。



 十六年前の二月。

 ふわふわとした雪が月の光りにキラキラと輝く美しい夜にアメジストは生まれ、母子ともに健康であると皆が歓び幸せに満ち溢れていた。


 それから、数時間後。

 疲労から身体を休めていたベリルの寝室には彼女と、出産の祝いで部屋に来ていたスピナの二人だけ。亡くなったとされる時間の最後まで側にいたスピナは枕元でずっと彼女が息を引き取るのを、()()いたのだ。


 その後、動揺するふりをし大泣きしながら部屋を飛び出したというスピナは――「皆に向かって芝居をしたものよ」と、カオメドに話した。


 さらに彼女は身を隠し聞いていたジャニスティが耳を疑う言葉を、発している。それは「嘘泣き顔と涙、哀しみの言葉で十分に説得力はあった」と。


 その理由としてベリルから“スピナお姉様”と慕われていた彼女は以前からベルメルシア家の屋敷によく出入りしており、そんな自分は怪しまれることはなかったという。


 裏中庭に響き渡ったスピナの高笑う、(おぞ)ましい声。


 部外者であるカオメドへ次々と内情を漏洩させていく裏切りの言葉の数々は、まるで当時その場にいたベルメルシア家の者たちを嘲笑するかのようであった。



「そして、それは……」


 ここまで淡々と説明をするように話し続けてきたジャニスティが突然言葉に詰まった、数十秒間。それは彼が冷静さを欠いてしまい激昂しそうな感情をなんとかしようと、押し殺している時間なのだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ