345.尊信
フォルはこのベルメルシア家にとってなくてはならない存在、そう一番感じているのは他でもない――オニキスなのだ。
「彼は日々の業務に加え、屋敷の美しさを保つため空いた時間も惜しまず、何事も手を抜かない。そして、私のような“魔力を持たぬ弱き人族”を信じ、当主として立つことに賛成し力になってくれている」
有難いことだとしみじみ話す彼の言葉にジャニスティは思わず、反応する。
「オニキス、そのようなこと! 『弱き人族』などと、一体誰が思うのです? 貴方のように仕事での人望も厚く、街の皆も含め頼られる存在。何があろうと、いつだって堂々と立ち向かい、落ち着いている姿を見て私はッ……。私は心から、貴方を信頼し憧れ、尊敬しています」
心打つジャニスティからの予想外な言葉にオニキスは一瞬、瞳の奥を潤ませ柔らかな雰囲気でニコリと笑い、応える。
「ありがとう……ジャニー。とても嬉しい褒め言葉だよ。しかしそんな私でも気持ちが揺らぐこともある。そんな時でも冷静さを忘れず、心身の調律を正しく保ち続けられる理由は、やはり――フォルの支えが大きいだろうな」
「はい……」
(それでもオニキスは、気付いているのだろうか)
そう心配するジャニスティにはもう一つ、気になっていることがあった。
「大変失礼を承知で……だが今は。私が感じた事を、正直に話したいと思う」
突然、何かを思い苦痛に満ちた表情で声を振り絞る彼を見ていたオニキスはその感情を、喜怒哀楽の全てを包み込むような大らかな声で言葉をかける。
「さっきも言ったがジャニー。君が思う事を、話してほしい」
「オニキス……」
「そう、遠慮はいらない。これからも、ね」
「はい、分かりました」
ジャニスティはずっと自身の心の中にあった疑問や考えそして様々な思いをこの場で話そうと、決意する。
「密会現場でのことで、もう一つ話していないことがあります」
「そうか……言いにくいことだったのだな」
オニキスはそう言うと眉を下げ困り顔で、お茶を一口。
「申し訳ありません……とても、信憑性に欠ける話かもしれないと。しかし先程の伺った話。ベリル様が永眠なさることとなった状況を聞いて、話すべきと思い直しました」
カタンっ。
話題が変化したところでエデは奥の部屋から二人のいるテーブルへと戻り、座る。これから話される内容には自分の声も必要となるだろうと判断したものであり再び、会合へと参加する姿勢を見せるとジャニスティへ笑いかけた。




