343.配意
(話を、戻さなくては――)
「オニキス……その、なんというか」
「ん?」
「アメジスト御嬢様に関わる話は、改めて聞かせてほしい」
「あぁはは、すまない。少し話題が逸れたようだ」
「いや! そういう意味ではないんだ。それに隠し扉について聞いたのは私の方で、ただ……」
他にも気になることがあり質問を続けたいからだと口籠りながら話すジャニスティはまだ、自分の中で整理できていない感情――アメジストへ抱く気持ちが特別な“想い”かもしれないということをオニキスたちに気付かれぬように心が鎮まるよう努めていた。
「もちろんだ、ジャニー。何でも遠慮なく聞いてくれ」
そんなオニキスは気付いているのかいないのか、彼の言葉に爽やか笑顔で応える。
――ふぅ……。
(しっかりしろ! 時間は限られている。今夜はあの、避役のように変化する男、カオメドという危険人物について考察せねばならないのだから)
そうしてゆっくりと、浅く深呼吸をしたジャニスティは心落ち着かせ再び考えを述べ始める。
「では、続きを。その隠し扉についてですが、ベリル様の眠る場所へスピナ様は入ることが出来るのでしょうか」
「それは不可能だ。過去、二人が姉妹のように仲の良い友人だったとはいえ、あの領域に“部外者”を入れることは、決してないだろうからね」
「そう、ですか……」
オニキスの答えに「やはりなぜ自分はそこに入れるのか」との思いがジャニスティの中で再び、過ぎる。
「しかしなぜ、そのような事を聞く?」
その質問をした彼の意図が見えないオニキスはふと、尋ねた。
「いえ……あのスピナ様がよく納得したな、と」
ベルメルシア家の重要な核心迫る話。
この時エデはテーブルには着かず奥にある部屋で座り静かに二人の会話を、見守る。それはベルメルシア家の先々代から仕える専属御者としての距離感を心得ているからであり此処での彼はいわば証人のような役割も、果たしているのだ。
「スピナ……そうだな、納得はしていなかったさ」
「やはり。ではどうやって――」
ジャニスティは次の言葉を選び迷い、詰まる。
しかしオニキスは想定内と言わんばかりにサラッと、話す。
「あのスピナを、どう黙らせたのか? ということかな」
一瞬ピクリと動いたジャニスティの強張る身体。
少しの沈黙後、彼は頷く。
「抑えたのは、フォルさ」
「――!」
「知っての通り、彼は長年ベルメルシア家の執事を務める、心強い味方だ」
そう語るオニキスの表情は、和らいでいた。




