表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
341/471

341.認可


「まだ残る私の弱さ……『彼女に生きていてほしい』という微かな想いが見せる、夢想かもしれないのだがね」


「しかし、オニキス。私は、その……ベリル様にお会いしたことはありませんし、写真も拝見したことはないのですが」


「あぁ、そうだったな」


「なぜ、扉を……」

(全く関係のない私が書庫で扉を見つけ、さらには入ることが出来たのか)


 ジャニスティはふと疑問を、思う。不思議そうに、または不安そうな困り顔で再び考え込んでいた。その普段見る事のない彼の表情豊かな様子にオニキスは微笑み、もう一言。


「ジャニー。良ければ私の考えをもう少しだけ、話しても()いかね?」


「はい……ぜひ、もちろんです」


「ありがとう。しかしこれは、私の憶測かもしれないが……」


 コトン――。


「ぁ……」

(この甘い香りは)


「お二人とも、お疲れでしょう。さぁ、お茶請けにどうぞ」

 エデはにっこりと笑み二人の前に白く美しい花の形をした皿を置いた。


「有難い。頭を使う時は、甘味が嬉しいものだ」

 オニキスはそう言い笑顔で喜びの気持ちを表しジャニスティへ目を向ける。


「……エデ、これは」

「はい、坊ちゃま。マリーの手作りですぞ」

「やはり……懐かしい香りだ」


 それは芸術的な一品(ひとしな)――ベルメ苺が練り込まれた、美しい花を(かたど)った生菓子であった。


「喜んで、頂けましたかな?」

「あぁ! もちろん……そうか、マリーが」

(素直になれなかったのだ、ずっと)


 エデの家で暮らした、三ヶ月間。

 彼にとって人生で初めて厳しくも愛ある指導を受けまた、“信じる心”を学んだ場所である。そこでマリーは文学を教える先生であり、母のような存在でもあった。


 しかし――家族の温もりなど知らない当時の彼には優しく包み込んでくれるマリーとどう会話をすれば良いかが解らず日々、その笑顔にも冷たく接していた。


「……今度、礼を」

(マリーへ、会いに行こう)


 ジャニスティの冷たい心は融けるように変化している。

 それは周囲の者たちも感じる程に。

 さらにこの数日間で言動だけではなく表情までもが柔らかく良き方向へと、変わっていた。


「君の事を見守り、そして認めたというのはベリルではないと思うのだよ」

「……?」


 首を傾げるジャニスティ。

 するとオニキスは目を瞑り、次の言葉を告げる。


「“ベルメルシアの瞳”とは、大切な可愛い私の愛娘――ベルメルシア=アメジストの事だ」


「なッ――!! まさかそのような」


 再度、一驚を喫した彼の頬は赤く染まり黙りこくった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うわああああ!!! これはもう!! ウルウルですっ!!(:_;)
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ