334.説明
「――そういうわけで坊ちゃま。念の為、奥様とご一緒だった人物の背格好や髪型、話し方や声の特徴含め、続きをお話し願えますかな?」
「そうだな……分かった」
エデがそう促すとジャニスティは多少オニキスの顔色を窺い言葉を気遣いながらもグッと気合いを入れ、口を切る。
◆
ジャニスティが報告した内容は――。
まずは急ぐあまり自分の直感に反して裏の中庭を通ってしまった自身の浅はかな行動を後悔した気持ちを述べ、その上で報告を進めていく。
それからはスピナの密会現場で見聞きしたことを事細かに話していった。
逢引の相手であるその“訪問者”との呆れる行動に加え、オニキスに関する様々な情報(魔力を持たない等)と、ベルメルシア家にとって大事な“能力”(血筋で受け継がれる力)についてペラペラと漏らしていたこと。その話の中で前当主でありアメジストの母でもある『ベリルの存在』までもが話されていた(ベリルの死後に、オニキスが塞ぎ込んだこと)。
そして全てがベルメルシア家への裏切り行為となる内容だったということを話した。
――そんな中で感じた、来訪者の異様な雰囲気や突然口調や声、態度がころころと変化する事などを説明しその中で言葉では表現できない「妙な違和感と怪しさ」があったとその特徴を、挙げていった。
そして――。
◆
(オニキス……貴方はすでに気付いているのか、それとも未だに?)
そう心の中で葛藤しながらも話し続けるジャニスティは密会現場で聞いた、あの話についてついにオニキス本人へと、訊ねる。
「ここまでで、一つ……オニキス。貴方に確認しておきたいことがある」
「ん? もちろん、分かることであれば、答えよう」
感情を抑えるようにずっと話し続けたジャニスティが突然、神妙な面持ちで言った言葉。その表情を見たオニキスもまた真剣に返事をする。
「実は、奥様がその男に笑いながら話した衝撃の言葉がとても信じられない内容で。それがオニキス、貴方との“婚姻関係は成立していない”と、そう仰っていた」
「間違いない。事実だ」
右手に持っていた酒のグラスをテーブルに置きながらオニキスはサラッと、答えた。
「じゃあ、なぜ……」
問い掛けに一秒もなく返ってきたベルメルシア家当主からの、答え。まさか本当だったのかとジャニスティは少し困惑した表情でオニキスを見る。その瞬間惹き込まれるようにオニキスの赤茶色の瞳奥に見えた、美しい黒色の眼には彼の強く固い意思が、表れていた。




