333.確証
「あぁ、エデの言う通り……微かに聞こえてきた声に警戒し、気配を消した状態で奥様に気付かれぬよう木の影に隠れた。その時、始めは奥様が誰と会っているのかまでは分からなかったんだが――」
「ではなぜ奥様とご一緒だった方が、カオメド様だと?」
エデはジャニスティへ細かく質問し何かを確認するように話していく。
「聞こえてくる会話の中で、奥様がそう呼んでいたからだ。私も旦那様……あ、いや、オニキスが午前に商談する相手の名だけは知っていたから」
「ふむ。しかし『逢引』とは。穏やかではありませぬな」
「そう……だが無論、そのカオメドという男に会った事はない。顔も知ら――」
ジャニスティはハッとする。
(そうだ、私はカオメド=オグディアという男の顔を知らない)
「なるほど」
エデはそう一言、微笑みながら次にオニキスへと声をかける。
「ベルさん、ご安心を。どうやら坊ちゃまは上手にかくれんぼをしたようですぞ。奥様にも、お相手とされる方にも。発見されてはおらぬでしょう」
「エデ、小さな子供でもあるまいし! 私は未熟者とはいえ、さすがに『かくれんぼ』はないだろう」
「はは、これは失礼でした。坊ちゃま、落ち着いてくだされ」
茶化されたジャニスティは「坊ちゃまってのも」と少しムスッと抵抗したがエデは優しく、微笑。
「あぁ、発見された可能性について心配はしていない……が、『かくれんぼ』ねぇ。はっはは」
二人のまるで親子のようなやり取りに場は和み何か考え込んでいたオニキスも「エデも上手いこと言うものだ」と思わず、笑う。
「落ち着いてるさ。いやでも、悪かった。聞こえてきた言葉を簡単に信じ、二人に報告してしまった。気配を消し魔力コントロール出来ていても……冷静さを欠いていたかもしれない」
「いえいえ、フフ。お気になさらずですぞ、坊ちゃま。さて、それはそうとカオメド様の顔を知らぬことに変わりはない、と。その坊ちゃまが見たという逢引のお相手が、間違いなくあの“カオメド=オグディア”であったとの確証を得たいものですな」
「うむ、確かに。証拠は必要だ」
「……」
オニキスは相変わらず涼しい顔でエデの話に答える。その様子を横目で見ていたジャニスティはグラスの水を少しだけ飲むと心の中で、呟く。
――『オニキスは、奥様に別の相手がいた事に関して気にも留めていないのか。では、やはり……』
次第にスピナの発言していた“あの話”に信憑性があるのではと、感じ始めていた。




