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328.方法


「私にとって此処は大切な場所だ。その証、想い……今夜ジャニーに話せて、私は本当に良かったと思っている」


「旦那様……」

 目を合わせたジャニスティは考え込んだ顔で下を向き、黙りこくる。


 その時、グラスに入った氷が“カラン”と弾んだ音色を響かせた。


(ジャニスは元気がないというより、何か悩んでいるようだが)


 オニキスはジャニスティの表情から何かしら心配事を抱えているように感じ、酒を一口飲むと静かに彼の様子を(うかが)う。


 そして再び、声をかける。


「ジャニー、此処でいつも話すようにすると良い」


 目の前で思い(わずら)う彼にオニキスは「私たちに気を遣うことはない」と、話す。


「あ、いえ……今夜は業務に関わる話と存じますので、私は――」


 そう話す彼の眼光は強く輝き瞳の奥からはそれを律儀に守ろうという意志がひしひしと、伝わってきた。


 ジャニスティの言う通り普段この酒場に来る時は大抵、仕事終わりだ。しかし今行われている会合は内容も意味も、大きく違う。


 それはカオメドという異質な人物の登場が現在進行形でベルメルシア家に危険と実害をもたらそうとしていると、考えられる事。

 その為、十年間オニキスへ仕えてきた中で最も重要な話し合いになるだろうと彼の顔は当然、強張っていた。


「それもそうだが……しかし。これは一つの方法なのだよ、ジャニー」


「方法?」


「そう、この状況を打破するための方法だ。もちろんこの事案が極めて困難な問題だと私もエデも思っている。が、こうしていつまでも同じような考えで進め意見を出していても、良い突破口は見つからない。そこで――いつもこの酒場で談笑する時の様に肩の力を抜いて、自由度を上げた声を出し合おうという訳だ」


「その……」

 オニキスから発せられた予想外の言葉に彼は少しだけ、驚く。


「我々は長年、この身体に染み付いた“仕事”への思考を持つ。そのせいかね、悩み始めると少々やり方が偏る」


「確かに……」


 ジャニスティはあの話((スピナの件))を切り出さなければという思いからか今後カオメドへの対応についても、なかなか意見を言えず悩んでいた。同じ考えが頭と心の中で繰り返され、沈下していく気分だったのだ。


「つまりだ。何を言いたいのかというと、それは『互いに構えず、いつも通り話そう』ということだ。その(ほう)が私もエデも、そしてジャニー、君もゆっくりと。話したいことを、言葉に出来るだろう」


 彼の落ち着いた雰囲気に安心感のある口調、その拍子は何とも心地良かった。


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