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326.仲間


 問いかけにゆっくりと瞬きを一回したオニキスが見せた真剣な表情と、キラリと光る赤茶色の瞳は娘アメジストとはまた違った深みのある宝石のような美しさを、持っている。


 そこでハッと目が合ったジャニスティは彼の微笑みの中にある強さと揺るがぬ意志を、感じていた。


「あぁ、もちろんだジャニス。私にとって、かけがえのない大切な仲間。そして今……(きみ)の力が、大いに必要な時だと感じている」


 その言葉はジャニスティの胸を熱くさせ、包み込む。肩に乗せられた温かな手のひらからはその切なる願いがツーっと、心へ伝わる気がした。


(この感覚……身体中の血液が、一気に巡っていくのが分かる)

 それは彼にとって初めての、とても不思議な体験である。だがもちろんベルメルシア家当主は変わらず、魔力を持たないままだ。


「旦那様……私のような者をそのように言って頂き、本当に心から感謝を……身に余る光栄に存じます」


 それは『仲間』と言われた喜びからなのか。はたまた別の感情が込み上げてきたものなのか? ジャニスティはふと零れ落ちそうになった涙を隠すよう下を向き太ももに乗せたままの手をギュッと、握り締める。


「いいや、ジャニス。私に礼など必要ない……顔を上げてくれ」


「……はい……ありがとう、ございます」

 深々と頭を下げると精一杯、感謝の意を伝えようとしていた。


 そう自分が必要とされているのだと改めて実感し確信することのできた瞬間なのだ。


「ふぅ……しかし……に、してもだ」

 そう言いながら思考するオニキスの顔色はフッと、曇る。


「あ、あの、旦那様?」

「ん? あぁ……ははは」


 難しい顔をして独り言を呟く当主を今度はジャニスティの方が心配そうに、見つめた。それにオニキスは力なく笑うと「今回ばかりは自分で答えを導きだせぬ、頼りない当主で申し訳ない」と、話す。


「旦那様、決してそのような事は――」

「はは、ありがとうジャニス。だがね、最近は歳のせいか発想も貧困になりつつあるからね。参っているよ」


 すると二人の会話を静観していたエデが微笑しながら、声をかけてきた。


「おやおや、何を(おっしゃ)いますやら旦那様……いや――()()さん」


「はは……そうだ、そうだな。思っ苦しくなるのは無理もないがエデもジャニスも、此処にいる間はいつも通り、変わらず愛称で呼んでくれ」


「えぇ、そうでしたな」


 オニキスはエデの気遣いに応えるようにグラス片手に入った氷をカランカラーンと鳴らし笑むと、続きを話し始めた。


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― 新着の感想 ―
[一言] え?ベルさん? ベルメルシアの家当主だからベルさん...かな? みこと
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