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325.悲観


 エデとオニキス。

 二人の会話に入ることなくジャニスティは一人、じっと考え込んでいた。



(一体、俺はいつまで。忌まわしく遠い昔の記憶に縛られているんだ?)


「やっぱ……恰好悪いな、()

 どんなに素晴らしい教育を受けても、書庫で様々な本を読みそれが知識と身になっていたとしても……「フッ、本質は変わってねぇ」と自分にだけ聞こえる声で、呟く。


 使うその言葉遣いに一人称は『俺』と、二人に出会う前の昔に戻るジャニスティ。そして今もなお心奥にある自身の魂を責め、卑下してしまう。


――『人生リベンジをしてみないか』


 そんな消極的な意識を助けるようにジャニスティの中で突如強く響いてきた、聞き覚えのある声色。


「あぁ……」

 それはまるで昨日のことのように思い浮かぶ、情景。初めてオニキスに出会った時に取引と言い提案された、あの言葉だった。


(そうだ……だよな。見失ってはいけない。俺の命はあの日、二人に救ってもらったものだろ)


――たとえ過去の辛い経験が、一生消えなくとも。

 誰にも話していない、彼の記憶だけが知る過去。


 しかしあの日からオニキスとエデのおかげでまた他を信じる心を取り戻し忘れかけていた本当の自分を見つけることの出来た、この十年間。

 その傷を塞いでくれるような濃厚な時間を、ベルメルシアの屋敷の者や街の者たちも含め与えてくれたのである。


 ジャニスティが“終幕村”で人生を諦めそして忘れかけていたのは、元の彼自身が(いだ)いていたはずの大切な心――“他を思いやれる気持ちの余裕”だったのかもしれない。


 様々に思い、今こうしてこの世に存在していられる((生きている))ことへの感謝の気持ちを示すかのように彼は、奮起する。



 淀み漂わせた雰囲気のジャニスティが何かを思い吹っ切れたような変化に、気付いたのか? 少しだけ(わび)しさを感じさせていたオニキスの表情はいつの間にかスッと、いつもの爽やかな空気を纏う。


 そしてあの日と同じ威厳ある顔つきと重厚さを感じる落ち着いた声でゆっくりと、丁寧に、話し始めた。


「……言葉、思い。いや、ただ生きて此処に居てくれる事実が、本当に心強いのだ。皆の存在が今の私にとって日々の支えであり、エデやフォル、そして――」


 ぽんっ。


「え……」


「ジャニス」

 オニキスは柔らかな微笑みで彼の肩に手を置き優しい声で、名を呼ぶ。


「お……あぁ、いえ。私も、ですか?」

 ジャニスティは突然の動作に思わず「俺」と言いそうになり慌てて口を抑えながら答え、驚いていた。


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― 新着の感想 ―
[一言] ウルッときました(:_;)
[一言] >「やっぱ……恰好悪いな、俺」 ここ好きです.。.:*♡ ジャニスティさんらしくないところが良いですね。 みこと
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