324.熟考
「エデは誰よりも強い魔力と類まれな才能を持ち、その能力は“無敵”だと思っている。そんな彼の口から――『カオメドはこれまで出会った中で一番危険だ』と言わせるほどの青年なのだ」
「はい……エデから聞いております」
(旦那様がここまで危機感を口にするなど、これまで一度もなかった)
気が引き締まるジャニスティは思っていることがそれ以上、言葉にならない。
そしてまたしばらくの間、三人のいる角の小部屋だけに静かな時間が流れた。まるで各々が、熟考するかのように。
ここでやはり明るく笑い沈黙を破ったのはエデの、深みある声だ。
「いやいや、ハッハハ! 旦那様。フォル様は経験豊富でとてもお強い。ですが私などは歳ばかり取って、中身はまだまだ未熟な部分ばかりです」
「何を言うか、エデ……お前は本当に出来た男だな。そう謙遜しなくても良いだろう」
「それはありがたいお言葉ですがな。こう長生きしておりますと、自分を認め過ぎるも然り。満足してしまえばもうそれが終わりの時になってしまうと。そう思いながら日々を過ごすようになりまして」
哀愁漂うエデに学ぶようにオニキスもまた真剣な眼差しで、答える。
「そうか……そうだな。私もどんなに好機が続こうと、常々自惚れてはならぬと思っている」
「大丈夫です。心配いりませぬ」
「いや……本当は弱い、まだまだ未熟者なのだ」
眉を下げ憂いを帯びた顔でそう話すオニキスはいつも見せない表情でどこか、不安気だった。
「それは旦那様こそ、ご謙遜を。まぁ私などは、サンヴァル種族としてこの世に生を受けた以上、命ある限り皆の為にこの身を捧げる所存。それでもまだまだ学びの連続でして、年老いてもなお心身の成長を続けようと心がけております故」
「……」
(エデも、旦那様も。日々学ぶこと、成長することを求め、常に生きる術を模索しているんだな……)
ジャニスティはエデからの教育でどのような状況下でも冷静沈着な精神を崩さぬよう、訓練されている。しかしそれ以前に“元の姿”が彼の中に棲み付き冷たい空気を、纏っていた。
それは他でもない“ジャニーの影”である。
あれから十年という月日が彼を立ち直らせ『御嬢様を護る』という重大な仕事を任されてからはさらに責任感が、養われた。加えて日々の充実した時間がジャニスティの凝り固まった心臓を和らげ、成長させてきたのだ。
とはいえ長く“終幕村”へ籠り拗らせた心の傷が邪魔をし、変われない部分があるのだろう。




