320.会合
限られた時間の中、今後を話し合うための大事な“会合”である。
「うむ。ジャニスの心配はもっともだが」
オニキスは一言だけ口を開き、そしてエデに視線を向ける。
「分かりました。私がそう提言する理由、内なる考えを申し上げます」
その言葉を聞き、手に持っていたグラスをテーブルへと戻したジャニスティは背筋を伸ばし斜め前に座るエデの方へと体を向ける。しっかりと“聞く”の態勢に入る彼を見たオニキスとエデの二人は一瞬、目を合わせた。
――ジャニス、君が初めて此処へ来た十年前とは、随分変わったな。
あの“終幕村”で、命の灯火が尽きる日を待っているだけだった彼が今や生きる希望に満ち溢れている。そんなジャニスティの強い眼光を見た彼らはその成長を嬉しく思い喜び、しかしそれを表情には出さず心の中だけで穏やかに微笑んでいた。
オニキスも、エデも。
まるで親心のような感情を抱いたのである。
「教えてくれ、エデ。あの男、一体どのような人物なのだ?」
(この様子だと、旦那様は恐らく知らないのだろうな。奥様とあの男の関係を――)
真剣な眼差しでエデに質問をするジャニスティの心には裏中庭で見たあの密会現場での映像が、過ぎっていた。
「まず、本日この街で行われた一年の中でも皆が楽しみにしている、大切な祭典ですがな。それを故意に、台無しにするようなカオメド氏の不審な行動は、とある捜査機関に報告済みです」
「とある……?」
「はは、いやいやジャニス。気になさるな」
自分の知らない“何か”に首を傾げ聞き返そうとしたジャニスティへエデは笑いながら「その事はまた後日、おいおい話すとしよう」と言い、話を続ける。
「さて、報告と言いましてもそう大層なことは申しておりませぬ。それに私より街の者たち皆が、証人でしょう。それでなくとも、彼はこの街を総括するベルメルシア家当主オニキス様を相手に、あれだけの騒動を起こしたわけですから……」
そこまで言うと一度目を瞑りゆっくりと水を一口飲むとエデは小さな声で「あの男はこの街に、そう長くは居られない」と、話を終えた。
「目をつけられている、監視対象になったという事実を、あのカオメド氏が気付かぬはずがない、その状況でまさかの行動には出ないだろうと。エデの言う考えとは、そういうことだな」
「えぇ、そうです」
「なるほど……だとすると、彼が動くとすれば」
――まさかッ!?
顎に手を当て考える仕草を見せたジャニスティは、ハッとする。




