315.光景
――彼が内に秘めた思い。クォーツへかけた魔法が、傍にいるアメジストを護ることにも繋がるとの願望も含んでいた。
「では、お兄様? わたくしがいればお姉様のことは、あんしん! あんしーん!! ですのよぉ」
「はい、分かりました。クォーツにお任せするよ」
「きゃは!」
(これまで公にならぬようにされてきたであろう“夢の種族レヴシャルメ”とは、一体。どのような力を有するのだろうな)
ジャニスティは心の中でそう呟く。その曇る表情を気付かれぬようサッと、隠した。
今判っているのは“ふわふわ純白の美しき羽”を持つことと、アメジストとクォーツの唇が触れた瞬間、視えた白い花の咲く光景。
『夢想レヴール』――夢に見た心、想いが視うる世界。それはレヴシャルメの魅せた“夢の魔法”なのだろうということである。
多くの可能性を秘めていると考えられる幼い、レヴの子。しかしまだクォーツ自身も自分の中に眠る全てを理解する事は、出来ていないのである。
「うっふふ! ジャニスが困ってる……フフ」
「御嬢様、笑い過ぎです」
「お兄様、困るのですか?」
「ウフフ、いいえ違うのよ。クォーツが可愛いって」
「うにゅっはぁー♪ 可愛いすきぃ~大好き! おにぃさまぁ~!!」
それを聞いたご満悦な妹クォーツは兄ジャニスティへ飛びつくと朝、食事の部屋での紹介時と同じように彼の首にギュッと巻きつき、その頬に軽くキスをする。
その瞬間、彼の心身へ流れ込んでくる温かで優しいもの……これもまたレヴシャルメ種族であるクォーツの力(魔力)と言えるだろう。
「あぁ、分かったよ……でも、クォーツ。静かにと約束しただろう」
「えっへへ~、ごめんなさぁい」
「まぁ! うふふ、皆様にクォーツをご紹介した時と同じ……いえ、それ以上に、温かな力を感じるわ」
アメジストは右手をギュッと自分の唇に当て「素敵な愛情表現だから」と幸せそうに、微笑む。その姿を見たジャニスティは朝の光景を、思い出す。
「お嬢様にとっては……その……とても大事なことです。クォーツの素直な気持ちだとしても、大変なことを――」
「あ、あのね、違うの! ジャニス。私があの時にお話した気持ちは、嘘偽りのない心からの言葉で、それは今でも変わっていないわ」
「そうですか……それなら、良いのですが」
未だ心配そうにする彼にアメジストは頬を赤らめ大きく頷くと、にっこりと笑う。それからクォーツの愛情で自分の心が感じた気持ち――あの時と同じ言葉を伝えた。




