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303.血統


 彼が信頼する恩師エデと、妻のマリー。

 その二人の娘という事(出生)を隠してきたノワへ理由(わけ)を訊ねた彼であったが、しかし――。


 それ以前に今は彼女の口から語られた種族間に関する話がジャニスティの感情を乱し、混乱させる。


 もちろん冷静沈着な彼はその悩ましさを顔に出す事はない。


 それでも心の中では彼が知る全ての情報が詳細に記され整理されたモノ――自身の中に眠る“記憶の本”を開き、抱く疑問の答えと可能性を探す。


(そうだ。サンヴァルに限らず、種族の違う相手との子を作るというのはやはり、予測出来ない問題もあるだろう)


「いや、もしかすると……」

 ジャニスティは小さな声で、呟く。


(今やこの世界では、それが普通のことだとしたら)

――ただ私が、この街以外を知らなすぎるだけなのか?


 そう彼は自分の顎に手を当て静かに、考え込む。


 すると「お答えします」と、彼女の囁くような声がした。


 この時、ノワにジャニスティの言葉が聞こえていたのか? それは定かではない。だが微動だにせず月を眺めていたノワは何かに気付いたように彼の方へとゆっくり視線を戻し、口を切る。


 抑揚なく、淡々と。

 それでいて美しい声色で、話し始めた。


「ジャニスティ様はご存じないかもしれませんが。此処から少し離れた場所に、サンヴァル種族がおよそ九割を占める小さな国があります」


「――ッ!? そんな話は、初めて耳にしたが……本当なのか?」

 あまりの衝撃に一瞬だけ目を見開いたジャニスティはノワへ話の続きを、促す。


「はい、事実です。これはあまり知られていない……というより、周囲に知られないように暮らしている、と言った方が正しいかもしれません」


「知られないように……? それはつまり、どういう――」


「サンヴァルの血統を、絶やさない為です」


 ノワの言う『絶やさない』とは、現代の生き残りが少なく希少であるとされるサンヴァル種族の“純血”を後世へと残してゆく目的がある、ということであった。


(国民の九割がサンヴァル種族。事実上『サンヴァル国』といったところか)

「ではその、残りの一割は」


「それは、私のようにハーフとして生まれた者。そして、サンヴァル族と共に生きる未来を覚悟した、愛溢れる他種族の方々です」


「……そうか」


――ノワの話は、理にかなっていた。


 此処は様々な種族が生存する、広い世界。

 互いに持つ能力や特質の違いを理解し、打ち解けるには時間がかかる。


 それは恐らく、この街だけではないのだ。


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― 新着の感想 ―
[一言] ああ、 きっと素晴らしい国なのですね(#^.^#)
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