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275.症状


――『スピナに従わなければいけない』

 自身の感情と反して彼女(スピナ)の威圧的態度や行いを注意せずに許してしまうというおかしな思考に、陥る。


 それは始め自分が傷心しているからだと言い聞かせたオニキスであったが、あれから十数年経ちそれでもスピナを立てる感情を持つ症状は、変わらない。


 結局どのような場面でも彼女にだけは意見を言うことが出来ず、ベルメルシア家にいる皆の笑顔や雰囲気を取り戻すことは結果、今日(こんにち)までに彼は成し得なかったのである。


「…………」


 父から多くの真実を告げられたアメジストは依然、沈黙したまま。微動だにせず何かを考えているような風でもなくただただ俯き、表情もなく――静かだ。


“ザァザワァ……ザワザワ……”

 心地良かったはずの風の音はいつの間にか落ち着きなくざわめき、木々の隙間を葉と葉が小さく打ちつけ合う。


(これで良かったのだろうか……いや。言わなければならなかったのだから)


 過去の選択は正しかったのか? 彼の中でぶつかり合うどうしようもない、思い。それでもオニキスの覚悟した決心が、揺らぐ事はない。


 しかし今、目の前で放心状態にある大切な愛娘へ何をどう声をかけたら良いのか。そう悩みながらも自分の正直な言葉で伝え謝罪することでしか彼は、表現できない。


 そう意を決して父オニキスはまた、口を開いた。


「アメジスト。さっき私に『黙って、隠していたのか』と聞いていたね。お前にそう思われ、怒られて当然のことだと思っている」


 ふぅっ、と。

 アメジストは目を伏せたままだが少しだけ、顔を上げる。


「そして結果的に、お前の魔力開花が見られた今日という大事な日に。私は秘密を打ち明けるという、卑怯な形になってしまったのだから」


 ふと、アメジストの潤む瞳が長く美しい髪の間から見え、オニキスは胸が締め付けられる思いだった。


 彼が話した最後の言葉からしばし沈黙の時間が、流れる。

 その間、父の脳内では愛しき妻ベリル、そして可愛く大切な愛娘アメジストとの様々な思い出が走馬灯のように、駆けていく。


「……――お父様」


「――ッ! アメジスト。あぁ、何でも言ってくれ」


 アメジストが物心ついた時から自然と決意し意識してきたこと。


 それは父オニキスから語られる母ベリルとの思い出話のような、想像の景色を実現する事。その素敵で輝くようなベルメルシア家に、昔のような笑顔を取り戻したいと願い諦めず、努力を続けてきた。


 その思いは父と娘、二人の心は同じなのだった。


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[一言] 続きを心待ちにしております(*^。^*)
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