267.無力
「――なぜ? お父様は。スピナお継母様と、一緒になられたのですか」
愛娘から父へ、意を決して聞いた疑問。
それは彼女が幼い頃から心の中でずっと、つっかえたようになっていたこと。いつも父オニキスと継母スピナとの間にある微妙な距離に対する、違和感であった。
「そうだな、そうお前が疑問に感じるのも無理はない」
「あ……いえ、その」
あまり見せない父の力ない姿と声に戸惑い、アメジストは思わず口籠ってしまう。それでも話をするのはもう今しかないと、感じていた。
とはいえ彼女自身、どのような雰囲気が正しい夫婦の形なのかなど当然まだよく理解できない。そして継母スピナから「友人を家に呼んではいけない」との言いつけは「自分が友人の家へ行くことも許さない」という意味もあったため他の家がどのような家族関係なのか、知る機会もなかったのである。
彼女は『なぜ?』という自分からの質問後どう言葉を続ければいいのか、分からなかった。
「十数年……すまない、アメジスト。いつかは私から話さなければ、そう思っていたんだ。しかし、なかなか言い出せなかった」
「十……数年?」
「もっと早くに気付き、目を覚ますべきだったのだ」
(そう、私はアメジストに言わなければならない――謝罪すべきことがある)
オニキスは太陽の光が粒のように降り注ぐ窓へと手を触れ、空を見上げる。そして「お前の魔力開花がきっかけのようになってしまい、大変申し訳なく思う。これは私の弱さ、無力さが原因だ」と、話し始める。
その内容はオニキスが愛娘に話せていなかった、真実の数々。
◆
彼自身が“魔力を持たない”人族である事、そんな自分の無力さが影響し娘アメジストは“ベルメルシア家を継ぐ者”としての魔力が持てないのではないかと心の中で、懸案していたという。
その話(オニキスが魔力を持たない)から繋がる疑問――『スピナとなぜ一緒になったのか?』についてオニキスは多く言葉を発せないアメジストの心情を汲み取りその説明をする前に「自分とスピナには婚姻関係はない」と、衝撃の真実を告げた。
アメジストはまさかの話に驚愕するも平常心を崩さず、真剣な眼差しで父の話に耳を傾ける。
しかしスピナが『奥様、継母として一緒にいる理由』これが最大不明瞭な問題の為、彼自身話すのを躊躇した。
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「アメジスト、そして愛する妻、ベリルへ。心からの謝罪を――」
こうして悩み言えずにいた胸の内を父は愛娘へと、打ち明けるのだった。




