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259.貴重


 毎回楽しそうに笑い話しながらもアメジストの心にはある一定の距離感が、保たれている。


 それは今こうして目の前にいるのは自分にとってかけがえのない“父”でありまた、この街で平和を愛する者たちにとっても同様。彼は偉大な存在――“ベルメルシア家当主”でもある、という思いからだ。


 誰に言われた訳でもないが彼女の高い思考(考察)能力が影響してか『父の立場』をよく理解し普通の親子間では感じないであろう緊張感を、幼き頃から抱いていた。


 しかし今日の父、オニキスの雰囲気はいつもと何か違っている。


「午前に街へ行く道中で、面白いものを見つけてね」

「そうなのですね」

「あぁ、それがだな。何とエデとフォルが……」

「まぁ! うっふふ――」

(お父様、どうしたのかしら。今日はとても陽気だわ)


 いつもであれば母ベリルの思い出話はもちろん、今ある様々な問題点を考え(とき)には悩み答えを探す話題が、多い。それは彼女にとって『学校では教わらない貴重な学びの時間』でもあった。


 だが信じられないことに気軽に弾む、今日の会話。悩み考える時間を与えない程、楽しいと感じる。父オニキスのふわりと和らいだ笑顔に心地よい声色、言葉を交わす(ごと)にアメジストの心は(ほぐ)れていった。


 そして父娘の間にあった見えない壁はいつの間にか、消え去る。


「ははっ。さて、アメジスト?」

「んふ、えっと。はい、お父様」


 しばらく他愛もない話をし笑みを浮かべすっかり和みリラックスした愛娘の姿に安堵した父は改めて彼女へ、尋ねた。


「最近何か変わった事、気になる事があるのではないかな?」


 流れるように進んでいく会話の中でふいに問われた言葉に思わずハッとした表情で反応してしまった彼女はその顔を隠すように少し、(うつむ)く。その動きを見たオニキスは再びアメジストの手を取り優しく包み込むと目を細め、微笑む。


「……」

 シンと静かに、しかし穏やかな部屋の空気。


 父からの温かい愛情にアメジストの胸は熱く、幸せを感じる。その瞬間彼女の気持ちの迷いは吹っ切れ、意を決したように顔を上げた。


「あの……」


 桃紫色の大きな瞳は煌めきを放つ。

 まるで美しい宝石、“紫水晶(アメジスト)”のように。


――瞳の色は違えど、ベリルのように本当に美しい。


「お父様に、お聞きしたいことがあります」

「うむ、どのような事でも、気にせずに言いなさい」


 彼女は学校での出来事を思い返し昼休みに先生から聞いた話――実母ベリルと継母スピナの関係についての質問を、始めた。


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