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254.本望


「フにゅぅ~ン……むにゃん」

「まぁ! ふふ。可愛い」

 アメジストの優しい手の温もりを感じたのか、気持ち良さそうに寝言を言うクォーツの姿にクスクスと笑み「どんな夢を見ているのかしら」と、呟く。


「えぇ、しかし良かった。この穏やかな時間を護ってゆけるよう今後も……最善を尽くします」


 その一瞬少しだけ彼の表情は、曇る。


 運良くこうして助ける事の出来た小さな命であるが、もし今後――レヴシャルメ種族の生き残りがまだ、この街にいるとしたら? そしてもし、血を継ぐ者((クォーツ))を迎えに来たとしたら。


(私はクォーツの仲間たちへ、どう説明するべきなのか)

 今になって自身が行った救助方法(他種族である自分の血と翼を使った復元魔法)が問題視されるのではないかという、懸念。それと同時に「もしや他に、助ける方法があったのではないか」という一抹の不安が、残っていた。


 それでも変わらないジャニスティの誓いは『兄妹として一緒にいる限り、一生クォーツを護る』それが、本望である。


「――ジャニスのおかげね。ありがとう」

「あ、はい?」


 アメジストの透き通るように美しく落ち着いた声が耳に触れジャニスティはハッと、我に返る。


「い、いいえ、その、お嬢様。それは、私の力ではありません。この子には最低限の基礎を教えただけ。にも関わらず、この短期間に多くの事を習得する理解力には、目を見張るものがあります。もちろん、種族の特性もあるとは思いますが……しかし一番はやはり、クォーツの努力あっての結果でしょう。それに――」


 いつもの倍程に口数多く彼は、答えていた。


 それはまるで気を紛らわすかのような余裕のない口調と言葉で、話し続ける。へりくだるような発言と真面目な顔で答えるジャニスティの様子を窺うとアメジストは少しだけ困り顔、眉を下げ声をかける。


「ねぇ、ジャニス。そんなに、謙遜しなくても」


 というアメジストもまた『クォーツの努力』が結果に大きく繋がっていると、感じていた。


 何故、そう思うのか?

 それは出会った者たちの言葉や声、さらに表情と様々な視点から“他種族の動き”を自分なりに学び吸収。座学ではジャニスティの手元にあった数少ない教材だけで、勉強。それでも「楽しい」と言い自然に応用し尚且つ無理なく、自分が出来ることから確実にやっていた。


 そうやってクォーツは一生懸命に、勉強をしているのである。笑いながらも抜けのないその勤勉さに二人が感銘を受けている気持ちは、同じだ。


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