247.受継
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この学校では午前の授業が終わる時、帰る前の挨拶には必ず生徒へ話す、先生方の“思いを伝える時間”がある。
それは――。
いつ如何なる時も姿勢は美しく。
言の葉は相手を敬う気持ちを忘れずに発する。
そして相手の立場に立ち思いやる気持ちを持ち続けることが大切。
――その『優しい心のまま』で。
いつまでも皆に過ごしてほしい。
そう思い願いながら、先生方は生徒たちへ日々、言葉にして伝え、話すのであった。
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「フレミージュさん、ありがとう……私、今日はずっと助けられてばかりで」
「なぁ~に言ってるんですか。私は何もしていないですよ!」
「でもお昼にも、皆さんと一緒に勇気づけて下さって」
「そんなこと! これはアメジストちゃん自身が持つ素敵なパワーだよ?」
「えっ? 私の『パワー』……ですか?」
友人フレミージュは「うんうん、きっとそうだよ」と頷き何故か、得意満面な表情。そんな二人の会話にこの日初めて話した上級生――“お友達”となった御嬢様方も、加わる。
「えぇ、フレミージュさんの言う通りです。アメジストさんには私たちとは違った力が……なんだか心洗われるように、聡明な雰囲気があります」
「私もそう感じますわ。いつも穏やかで柔らかな印象で」
「あ、あの。なんだか恥ずかしいです」
思わぬ展開にアメジストは胸がいっぱいになり「嬉しい」と自然に笑みが、零れていた。そうして彼女たちが楽しそうに談笑している少しの間にふと先生がジャニスティへと、話しかける。
「そちらの御方。少し、お話してもよろしいかしら?」
「はい、もちろんです。挨拶が遅れましたが――私、ベルメルシア家当主よりアメジスト様のお世話兼お護り役を仰せつかっております、ジャニスティと申します」
深めのお辞儀をしながら顔を上げ冷静なジャニスティ。自身の身分を明かす彼の姿に先生は瞼を閉じ優しく笑むと「そうですか、アメジストさんの……」と言い続きを、話し始めた。
「ジャニスティさん。貴方へ一つだけお伝えしたいこと、いえ。お願いしたいことがございます」
「はい、どのような」
「ずっと。守り続けてきた大切なものを受け継ぐのは、そう容易くありません」
「えぇ……そうです、ね」
一瞬、先生が何を言っているのかとジャニスティは思い少し首を、傾げる。しかしすぐに言葉の意味を考えるため一気に頭を、働かせた。そしてすぐに先生が何を言わんとするのかを、理解する。
――受け継ぐ……恐らく茶会のことだろう、と。




