245.徽章
ザワザワッ――!!
(((ま、まさか!? あの先生って……)))
あることに気付いた御嬢様方と校門前(出入り口前)に集まる生徒たちは目を丸くし、空気は張り詰める。
――その理由は、ただ一つ。
皆の瞳に映る視線の先に立つ人物は“最高位紋章の徽章”を身につけ森厳たる気配を放つ、先生であった。滅多に生徒の前には姿を現さない「表に出て来るはずのない先生だ」と皆その光景に、目を疑う。
「えっ……先生が」
「いかがなさいましたか、お嬢様」
「ジャニス、い、いいえ。何でもないの」
(先程お会いした時には、徽章をつけていらっしゃらなかったはずなのに)
心配そうにアメジストの顔を窺い声をかけたジャニスティへ取り繕うような笑顔で答えた彼女の、本当の心は。
そのような偉い先生だったとは知らずお茶までごちそうになりさらには重要な話をして頂いたと改めて一驚し、言葉を失う。それで職員室に着いた自分がいつも以上に緊張していたのだろうかと納得し呼ばれた意味を、思慮していた。
そしてふと、辺りを見渡す――。
シー……ン。
(まるで、時間が止まっているみたい。とても静かだわ)
この極めて異例な事態に固唾をのんで見守る生徒たちと同じ気持ちで彼女もまた、立ち尽くしていた。
「あの、アメジストさん」
先生へ向いていた視線が一斉に声のする方へと、移動する。
「は、い……」
「……失礼な言い方をしてしまったこと、お詫びいたしますわ」
恐る恐る返事をするアメジストに声の主は一瞬“ぺこん”と頭を下げ、謝罪した。
この時、沈黙を破ったのは意外にも取り巻きの中心にいたあの一番華美で上から口調だった、御嬢様である。
「私たち皆、貴女のことが羨ましくって」
「執事さん? も、優しそうで、格好良いし」
「そうそう、私の家にいるお手伝いはあんなに優しくなくて、厳しいのよ」
先生の注意を受けるまではフレミージュの言葉に耳を貸さず言い返していた、御嬢様方。今は揶揄い口調でコソコソと話していた他の者もきまりが悪そうに真っ赤な顔で思っていた気持ちを、口にする。
「……」
アメジストは黙って話の続きを聞いていた。
「貴女はいつも笑顔で楽しそうで、仲間に囲まれていて」
「いえ、あの。私はそんな大層な人ではないので日々、こうして楽しく笑って過ごせているのも、仲良くして下さる優しい皆様のおかげですし――」
すると突然、華美な御嬢様がアメジストの方を涙目で見つめながら強い口調で溢れ出す感情を、言葉にした。




