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242.耳語


「ねぇねぇ、あの人見て! とても背が高くて素敵」

「本当ですわ~。なんて眉目秀麗な貴公子様かしら」


「……?」

 馬車へ向かおうとした二人の後ろから何やら、声がしてきた。

 その黄色い声のする方へ目を向けたアメジストはふとこんなことを、思う。


 確かにジャニスティは背も高くスタイル抜群「どこかの貴公子なのか」と言われればそう見えるだろうな、と。


 幼い頃から見てきた彼の美しさは変わらずそして彼女にとってかけがえのない存在というのも、変わっていない。


 ある時は教育係、世話役と厳しく。またある時は親や兄のように優しく。これまでずっと自分を傍で見守ってくれる彼を心から慕い、信頼してきた。


 それが今はどうしようもなく、感じたことのない気持ち――何かが身体の中を熱く駆け巡り胸が締め付けられるような感覚に、苦しくなる。


『隣にいるの、アメジストさんじゃない』

『ということは、ベルメルシア家専属の執事さんかしら?』

『まさか! あんなに格好いいお手伝いさんなんている?』


 ざわざわざわ……。


 いつもであればジャニスティは送迎の際、あまり目立たぬようにと御者であるエデの着ける馬車の前でアメジストの帰りを、待つ。だが、この日はなぜか? 校門を出たすぐの場所――出入口門のすぐ(そば)で姿勢良く真っ直ぐと立ち彼女のことを、出迎えていたのだ。


 どのクラスもほぼ同時刻に授業が終了する。そのためこの時間帯は出入口門を通る者も自ずと、増えていく。その中には当然アメジストが話した事のない学級の者や上級生の生徒も多く、出入りしていた。


『もしかして、そういうお相手では?』

『シィーッ!! 聞こえますわよ』

『そうですよ、ベルメルシア家の御令嬢様なのですから』


 先程よりも小さな声でコソコソと話し始める御嬢様方。しかしアメジストの耳にもはっきりと聞こえ、届く。


「申し訳ありません、お嬢様。少し目立ってしまったようで」

 悲しみではなく眉を下げた困り顔でジャニスティは彼女に、謝る。


「いいえ、そんな! 気にしないで……」

(そういえばジャニス、こんなに校門近くまで来たことがない気がするわ)


 何とも言えぬ気分にアメジストも眉を下げ、笑った。


 そこへ御嬢様方を横目にサーっと通り過ぎた生徒が、一人。大きく手を振り笑顔で彼女へ声をかけてきた、その人物は。


「ア~メジストちゃあ~ん!!」

「えぇ、あっ、フレミージュさん!?」


 突然の出来事に驚き顔を赤らめたアメジストは戸惑いながらも、返事をした。


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