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235.経験


「……分かった」

(エデにはともかく話さねば、だが)


「では、今夜に。旦那様には私から声をかけておきましょう」

「ん? えぅ」


 まるで自分の心を読まれているかのようなエデの言葉に驚く顔を見せるジャニスティは戸惑いながらも、答える。


「そうだな、そうだよな。頼む」

「フフ、えぇ~もちろんですよ、坊ちゃま。お任せ下さい」

「また、その言い方は……フッ。全く、エデには敵わないな」


 カタカタ、コットコト……。


 ゆっくりと、優しく馬車を進めるエデ。それはいつもと変わらず落ち着き滑らかに流れるように、走らせる。


 今夜会合するためにエデの言った場所とは彼が、マスターを担う店――あの地下で様々な種族の者たちが仲良く賑わい酒を交わす、夢のような空間のことである。


 その場にもちろんオニキスも同席してもらい、三人で話そうというのだ。ジャニスティは話すことを内心気が進まず悩んでいたがエデの間髪入れずな誘いに押され、決心した。


(やはり、黙っているわけにはいかないのだな)

「奥様の件。言いづらいが旦那様に話すべき、か」


――ぽつりと。

 誰にも聞こえないような声でジャニスティは、呟く。


「湿っぽい話はここまでにしましょう。さぁ! クォーツお嬢様、目当ての店に着きましたぞ」


 ガチャッ、バタン――。


 パタパタパタぁ~ッ!!

「ふぁにゅ~ん! きゃっはぁ♪ すごぉーいのです!」

「こ……此処は?」


 服飾の祭典で賑わう街の中心から少し離れたところで、馬車はとまる。その目立たぬ店構えは不思議な雰囲気が、漂っていた。クォーツはエデが馬車の扉を開けた瞬間から駆け出すように降りると外から店の飾り窓へ手を置き、キラキラと瞳を輝かせ店内をのぞき込む。


「うにうにぃ~♪ 見て見てぇ、お兄様ぁ! ピカピカがありますのぉ」

「あぁ、本当だね。でもそんなに顔をくっつけてはいけないよ」


 初めての経験――それは。


 レヴシャルメ種族であるクォーツはあの事件が起こるまでレヴ族の屋敷から外へ出たことが、あまりなかったのだろう。見る景色や花々に食物、このような店も珍しそうにする。


 そしてジャニスティもまた、初めての“家族”と言える妹クォーツとの関わり方にあたふたとしながらも感じ気付く幸せも含め、様々な感情を学んでいた。


「わぁ~い!」

 無邪気に入口へ向かうクォーツ。


「さぁ、貴方も。重い気分で行くような場所ではないのですよ」


「ありがとう、エデ」


 喜ぶ妹からはこれまで見たことのないような煌めきを、感じる。



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― 新着の感想 ―
[一言] クォーツちゃんの輝きは本当に素敵で……心が温かくなります。
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