231.認識
「うん? どうした、エデ」
名を呼ばれたジャニスティはクォーツの手を握るとエデに応える。
「いえ、お嬢様をお迎えに参るには、まだ時間がありますのでね。お二人とも此処へ何故……どうなされたのかと思いましてな」
オニキスたちが戻ってからすぐ馬車の調整などをしていたエデであったが作業していた時間的には、二十分程だ。そして今の時刻は十四時半前、アメジストを迎えにベルメルシア家の屋敷を出発するまでにはまだまだ、時間があった。
そのため今この場に彼らが来たことを少し、不思議に感じていたのだ。
「あぁ、さっきまで部屋にいた。遅くなったがクォーツに昼食を取らせようとしていた矢先、突然『エデが迎えに来ている』と飛び跳ねてな」
「なんと、クォーツお嬢様が。お部屋からは遠いでしょうに、私の到着を気付かれたということですかな?」
その問いに軽く頷いたジャニスティとエデは顔を見合わせすぐに、二人の間でニコニコと笑うクォーツの顔を、窺う。
「恥ずかしながら、私はエデの馬車には気が付かなかった」
そう目を少し地面へ逸らし話すジャニスティにエデは目を瞑りゆっくりと彼に、声をかける。
「いえ、ジャニスティ様、それが通常だと言えるでしょう。私は気配を消すことも常に心掛けています。これも業務の一環ですからな」
「まぁ、そうなのだが」
「――と、なりますと」
エデは少し複雑な表情で思案するように幼い彼女を、見つめた。
その視線に気付いてのことなのか? クォーツは自分のピンク色に染まるもちもち頬を両手で包み笑顔で、話す。
「おじちゃまは、とてもカッコ良くて優しいくって、いーっぱいだぁい好きですのぉ♪」
「おぉそれはありがたいお言葉です、クォーツお嬢様。エデは心から大変嬉しゅうございますぞ」
自身の胸に手を当て喜びを表すとお礼を伝えるエデの顔は近年稀に見る、満面の笑顔。そのくしゃくしゃになった皴が今、彼の安らぐ幸せな心情を、物語る。
(あのエデが、構えていない。それに見たことのないような優しい顔をしている)
ジャニスティは自分の目に映る光景にだんだんと胸が、熱くなっていく。その雰囲気とエデの表情に驚きつつも感化され彼自身も、幸せな気持ちになった。
嬉しさを表現するクォーツはベルメルシア家に来て、言葉を覚えてゆくたび心想うまま何でも素直に、言ってしまう。
――来た者を距離があっても認識。レヴシャルメ種族の能力なのか?
そして改めて、考えさせられるのであった。




