230.根気
「ぼちゃ……ぼま? うゆぅ、それはどういう言葉ですのぉ?」
この日も驚く速さで人族の言葉や様々な知識を習得していたクォーツは自分の中に吸収したものの中から『坊ちゃま』の意味を探す。
それは小さな頭の記憶の引き出しを順番に開けていく、身振り手振りな仕草。
時折り「うみゅいぅー……」と難しい顔で一生懸命に考える妹の姿がまたとても愛おしく感じ今のジャニスティにとってクォーツは、目に入れても痛くない程に可愛いかった。
「クォーツ、そんなに悩まなくていい。その言葉は気にするな」
「んなにゅ? そうなのですか? うー。でもぉ……」
髪をふわりと撫でながら兄ジャニスティは優しい口調でクォーツに、話す。が、しかし――聞いた言葉の意味を自分の中にある言語とのすり合わせで見つけられない事に少々不満そうに頬を赤らめ“ぷくっ”と膨らますと「諦めきれないのです」と、ぽつり。
学ぶ事に対してとても、意欲的な様子を見せた。
「いや……そういえばだ、クォーツ、その“おじちゃま”はどこで覚えたのだ?」
話を逸らすように質問したジャニスティだがその言葉は本心で「まさか本に載ってはいないはずだが」と疑問に思ったのだ。
「んーえっと、あの、自分よりもたくさんお歳を取っていたら“おじちゃま”と書いてたのですの……」
首を傾げながら透き通るようなお目めをくるんと潤ませ、答えた。その話の流れでジャニスティはふと、気付く。
「クォーツ、それはもしや“叔父さん”や“叔父さま”では?」
「んなふ! そうです? お兄様! 私、間違いで覚えているのですかぁ!?」
りんごのように真っ赤っかな顔で腕をブンブン振り恥ずかしそうにエデの方を見ると目が合った彼は笑いながら、口を開いた。
「はっはは、大丈夫。私は、どちらでも構いませんぞ。クォーツお嬢様の呼びやすい方で」
間違ってしまった自分に落ち込み一気に不安気な表情になっていたクォーツはエデの答えにパァ―ッと、明るい笑顔になる。
「はぁ……エデ。飛びついたことといい、重ね重ねすまないな」
溜息混じりにジャニスティはエデにお詫びの言葉を、伝えた。
「いえいえ。しかし、クォーツ様の必死なお姿や何事も最後まで諦めずに頑張ろうとするその姿勢。まるで、アメジストお嬢様に似ていて驚きますな」
エデはそう言うと抱いていたクォーツをゆっくりと下ろし瞳を合わせ、そして――。
「さて、ジャニスティ様」
何事もなかったかのように彼はまた優しく、話しかけた。




