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222.価値



――時間(とき)は少し(さかのぼ)り、服飾の祭典にてカオメドの出店へと案内されたオニキスとフォルは、目を見張る。


「どうです、ベルメルシアさん! この素晴らしい服飾の数々!! 私が自信を持ってご紹介していた理由がお分かりになったのではありませんか!?」


 左手を胸に右手は真っ直ぐに天へ向け、嬉しさからか? 紅潮するカオメドの顔は自信に満ち溢れている。しかしそんな彼の狙いは外れる。


「……ふぅ」

(この男、もう私の手に負えない)


 呆れ溜息をつき怪訝な表情を見せるオニキスはそれでも筋は通そうときっちり、回答を告げた。


「カオメド君。やはり君との取引は、実現不可能のようだ」


「ハイ、はっ? はいぃっ!? な……何が、な、どういう……」


 自慢の商品――まさかその現物を見せて取引を断られるとは夢にも思っていなかったカオメドは予想外な状況に、頭を抱える。ベルメルシア家当主からの回答に動揺を隠せずに震える声と、その唇。


「どのような事情があろうとも、君との取引は今後一切あり得ない」


 朝の商談時からずっと変わらぬ無礼な態度に加え、目の前に並べられたその“商品”を一目見た瞬間からオニキスは、決意をしていた。


「いやいや、ちょっと。ふはは……ほら、よく見て、触って確かめて!! おかしいですって! 今朝も言ったでしょ!? 他の街ではもう在庫がなくなる異常事態で、飛ぶように売れていると!」


 しかしその言葉は全くオニキスには、響かない。

 一番の原因は商品に対する扱いの雑さが見て取れ、カオメド自身が持つ商売への考えや向き合い方に問題があると、感じたからだ。


(いさぎよ)く――カオメド君、これ以上私をがっかりさせないでくれ」


 ふと呟いたオニキスの目線は悲しそうに所狭しと並べられた洋服や鞄などへ、向けられる。それでも言葉の意味を全く理解できないカオメドは(せき)を切るように、抗議を始めた。


「な、何故です!? この高級な生地には一流の生糸を使用し、そして毛皮に羽毛もなかなか手に入らない……革製品だって一級品だ! この価値が――」


(くど)い!」

 オニキスの強い一声は彼に説明の余地すら、与えない。


 それでも食い下がるカオメドはニヤッと、発言をする。


「後悔しても知りませんよ? そうでした、そもそも私の()()は、当に決まっているので」


 その後も彼の言葉は自分の首を絞めるようだが、しかし。意味深に繰り返された。


 最後は憐れむ目で「商売を学び直しなさい」とオニキスが苦言を呈しフォルと共に彼の店を、後にした。


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