22.芽生
――『命に代えても貴女様の事は必ず、このジャニスがお護りいたします』
昨夜大雨の中で、そう言ったジャニスティの言葉が、アメジストの心で温かく光っていた。
「えぇ、ジャニス。私もあなたが困っていたら助けたい。そして」
――守りたい。
そう呟いた彼女の中で、何かが芽生える。
今までに感じた事のない胸を締めつけるような感情と切ない想い。相反して心の中に、美しく咲く花を大切に愛でるような、温かく穏やかな気持ちになった。
◇
そしてまたスプーンに一口分の魔水をすくい、毎回同じように下唇に触れると口を開けるよう促す。
ジャニスティは復元魔法で力を開放し過ぎたのか? サンヴァル種族しか持たない尖る牙が姿を現していた。彼はこの秘密にしてきた本当の正体を、アメジストに知られたくなかったのだ。
ゆっくりと飲ませる彼女の手が、ふと止まる。アメジストはその美しい瞳を潤ませると、キラキラとした目で彼の顔を見つめた。
(頑張るのよ! 私なら出来る)
それからすぐに先程までとは違う固く厳しい表情になる。そして優しくのんびりとしたトーンで、声をかけた。
「ジャニス、魔水をすくいすぎて溢してしまいそうなの。少し口を閉じてくれるかしら?」
回復へ向かわないジャニスティの身体。そして気力・魔力ともに変わらず弱っていく。そんな中で信頼するアメジストからの声は、判断能力の緩い彼に考える力を無くさせ、甘やかす。
(ジャニス、これできっと元気になって!!)
「はぅあーん?!」
近くで全てを見ているレヴの子が、心配そうに声をかける。しかしアメジストは動じる事はなく、その子に笑顔を向け応えると、決意の行動を実行に移した。
そしてジャニスティは彼女に言われる通りに、口をゆっくりと閉じていった。
――うぅ、痛ッ!!
「は、これ、は……な、にを? ア、メジスト……様ッ?!」
「大丈夫、あなたはすぐに元気になるわ」
『アァァ!!!! うぅーぐあぁ!!』
ジャニスティは苦しく悶えるように声を出し、広いダブルベッドの上を左右に転がり落ちそうにもなっていた。
それを必死で抱きしめ止めるアメジスト。一体彼の身体に何をしたのか?
血を求める種族だと分かり、考え思いついてしまった。アメジストは口を閉じる瞬間に人差し指を忍ばせ、ジャニスの尖る牙へ思いっきり押し付けたのだ。
――鮮度の高い血を……。
そうすれば出血したばかりの新鮮な血をあげられると考え、きっと回復するのではないかと思ったのである。




