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218.謝意



 職員室を出てから教室へ戻ったアメジストは約束通り待っていてくれたクラスメイトの皆と一緒に、楽しく昼食時間を過ごした。

 何かあったのか? と、本当はとても気になり聞きたかった友人フレミージュであったが、そこは察する。それだけアメジストの事を大切に思い「彼女から話があれば、喜んで聞こう!」そう、決めていた。

 もちろん他の者たちも同じ気持ちであり誰一人、無理に聞いたりはしない。


 それから午後の授業も無事に終わり生徒たちは帰り支度をし、それぞれ帰路につく。思っていた以上に心穏やかに過ごせたアメジストは友人たちへ笑顔で手を振るといつも御者(ぎょしゃ)のエデが馬車を着ける校門の近くへ向かい、歩き始めた。



「もう、こんな時間か」


 アメジストの授業が終わるおよそ一時間前。

 屋敷で茶会の準備に追われていたジャニスティはふと壁掛けの時計に目をやり小さな声で、呟く。


(ここまで終わらせたら、急いでクォーツを部屋へ迎えに)


「あ、あの! ジャニスティ様」

「私たち、その……」


「んっ、どうした」


 この日は午後三時にアメジストを迎えに学校へ行く予定。一緒に行くと約束したクォーツを連れエデの馬車を待たなければならない彼は頭の中で予定を考え、時間の組み立てを始めた。


 するとお手伝いたちから話しかけられたのだ。その声に彼はいつも通り冷たい表情で少しだけ顔を上げる。


(何だ? 皆、私を見ているようだが)

 部屋中を見渡し違和感を感じたジャニスティは警戒をしながらもあることに、気付く。それは触れたことのない、温かな視線。ベルメルシア家の屋敷へ来てから初めて経験する空気感に心の中で彼は、戸惑う。


 そのお手伝いたちが向ける陽だまりのような笑顔の理由はすぐに、判明した。


「ジャニスティ様がいて下さって、本当に助かりました」

「本当よねぇ! ノワ様から申しつけられた本日分の仕事は、もうこれで完璧です」

「ジャニスティ様がいなかったら、絶対に夜遅くまでかかっていました」


 口々に話すお手伝いたちの明るい声は全て、ジャニスティへ感謝の意を伝える言葉だった。


 思えば彼は十年間ベルメルシア家でお嬢様付きとしてだけ業務に励み、勤めてきた。それは当然アメジストの事を全力で、護るためである。


 そのためか、このように多くの者たちから喜ばれ感謝をされることなどなくまた“終幕村”で命が消えるのを待っていただけの時間と、それ以前を思い返しても彼の人生で初めての経験と言っても過言ではなかった。


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