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211.確認


 彼女の両手は自然と膝の上でギュッと握り揃えられ、慣れない職員室という場所に緊張した面持ちで先生が戻るのを、待つ。


 数分後、温かな紅茶を入れた先生は朗らかさを感じさせる笑みでアメジストの向かいにゆっくりと、腰掛けた。


 カチャン……。

「お待たせしたわね。さぁ、どうぞ」

「あ、はい。ありがとうございます」


(なんて優しい声。それに素敵な笑顔と雰囲気で)


 そんなことを考えながら、口に運ぶ。

――美味しい。それに……どこか懐かしいような味だわ。


 ほど良い温かさで飲みやすい紅茶は小さめの花柄ティーカップからアメジストの唇に触れ喉を通り、その華奢な体の内へと流れていく。ふわっと鼻の奥を通る爽やかな茶葉の香りは一瞬で心を、ホッとさせる。


「どう? お口に合ったかしら?」

「はい。じんわりと染みて心が落ち着くようで、温かくて。とても美味しいです」


「そう! それは良かったわ」

 この紅茶には癒やし効果があるのだと嬉しそうに口元を緩める先生の顔に彼女は、安堵感を得る。


「……ふぁ」

 アメジストは先生の喜ぶ顔を見た途端、心の奥がなんだか恥ずかしいような、くすぐったい気分になった。それはどんな言葉でも言い表せない、表現で出来ない心地良さ。


 不思議なその感覚に彼女の頬はいつの間にか淡い桃色に、染まる。


 先生はその様子に気付くと「あら、そんなに緊張しないでね」と言いながら呼び出した理由――本題を、ゆっくりと話し始めた。


「突然ごめんなさいね、アメジストさん。貴女の事をお呼びしたのは、少し確認したいことがあったのです」


「確認、ですか?」

 眉を下げもの悲しそうに聞き返した彼女へ、先生は口調や声のトーンを変えることなく答える。


「えぇ。今日の午前に、貴女のお継母様から連絡がありました。三日後……明明後日に学校を休ませる、と」


 ドックン――。


「……はい」

 心臓が止まるような息苦しさに言葉を詰まらせ俯き加減になる。そんな彼女へ向ける先生の優しい微笑みは崩れることなく穏やかな雰囲気のままで、流れるように話は続いていく。


「その理由が“茶会”だと伺いましたが、少し妙な感じがしたのです」

「急なことで。先生にご心配をおかけしてしまい、申し訳ありません」


 十数年前、アメジストの実母であるベリルがいた頃までは毎月の恒例行事として街でも有名だった、ベルメルシア家の茶会。しかしベリルが他界してからはスピナの思うがまま――他の招宴ですら、一度たりとも行われなかったのだ。


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