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208.学校



 街で起こっていたカオメド=オグディアの騒ぎが落ち着き始めた頃。



 学校へ登校したアメジストはちょうど午前の授業を終える時間、さすがに朝の一件で勉強どころではなくクォーツの事を想い、気が気でない時間を過ごしていた。


「午前はここまで。さて皆さん、生活の緩みはその心を表します。たとえ休憩時間であっても、くれぐれも周囲に目を配りその立ち振る舞いの美しさを忘れないよう胸に刻み、行動するように」


 授業をしていた先生の「よろしいですね」という語気を強めた声に教室中が静まりピシッという音が聴こえるかのように、引き締まる。こうして毎日指導される先生からの厳しい言葉の数々がこの学校内の規律を、保っていた。


“カーン、カラーン、カーン――”。


 午前授業終了の時刻を伝える鐘が鳴ると生徒たちは各自思い思いな時間を、過ごす。昼食時、ある生徒たちはそのまま教室に、またある生徒たちは校内の中庭へ向かう。


「はぁ、やっと今日も苦手な授業が終わりましたわぁ」

「そのお気持ちとても分かります~。(わたくし)も苦手で」


 ガタン――……ザワザワ……。


「本日はお昼、どこへ行きます?」

「そうですわねぇ」


 この学校はアメジストのような御令嬢だけではなく街で暮らす者が皆、分け隔てなく通う。『種族関係なしに皆仲良しでいられる世界を』と過ごす彼女にとって此処はたくさんの者と触れ合える――願ってもない場所であった。


「はぁ。クォーツ、大丈夫かしら」

(クォーツが苦しんでいたあの姿が、目に焼き付いて離れないの)


 まだ、経験の浅い十六歳の御嬢様(アメジスト)の中には言葉にならない抱えきれない程の、心痛があった。


 一言呟いたアメジストは自分の席からおもむろに立ち上がり皆が向かう方向とは反対に窓際へと歩き、窓を開ける。


 キィー……ふわぁ。


 教室の窓から吹いた心地良い、風。

 澄み切った青空へ映像を浮かべるように朝、馬車から見えた海とジャニスティの天色(あまいろ)の髪が美しく(なび)いた光景を、思い出す。


「――ちゃん。あの、アメジストちゃん!」

「んあ、えっ、はいッ!!」


 皆の楽しそうな声が響く中ふと名前を呼ばれたのに、気が付く。

 それは話しかける友人の声も聞こえない程に一人、物思いに(ふけ)っていたのだ。


「大きな声でごめんなさい。何度か呼んだのですが」

「そうだったのですか!? こちらこそ、ごめんなさい」

「いえ……何か、あったの?」


 私で良ければ聞きますよ、と心配し声をかけてくれる友人へ「大丈夫です」と、笑顔で答えた。


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