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207.悪辣


「なぁ、エデさん。あの人は何かい? 特別ってことか」


 ふと、街の商人である一人が怪訝(けげん)そうに質問をする。同じく周囲から少しばかりチクっと刺さるような視線を、エデは感じた。


――そう、皆が怒るのには十分な理由がある。


 いくら許可証を手にして目の前で見せられ持っていたとはいえ、カオメドは自身の店を出すため祭典の範囲を自由に広げその上、開始時間も守らず自店だけ客を集めようとしていたというのだ。


 そんな得手勝手をしているのがこの街の者ではなく、見たことも聞いたこともない。顔も知らぬ新参者の商人が気ままにやろうとしていたのだから、皆が気分を害するのも無理のない話であった。


「皆さんのお気持ちはごもっとも。しかし何か、相手との行き違いがあったようでしてね。たった今、オニキス様が対応して下さっています」


 エデは「ご安心を」と笑顔でそう穏やかに、答える。

 そして――深い安堵の表情を再度、浮かべていた。


 それはほんの少し前までカオメドの事を「すごい」「聞き入る」とまで言っていた街の皆(此処に集まっている者たち)の状態が、正常に戻せたのだなと、感じられたからである。カオメドの魔法――“偽物の信用”は(もろ)く一瞬で崩れ、我に返った皆の心には見知らぬ彼(カオメド)への不満や怒りが込み上げやがて不信感へと、変わっていく。


「あ、あぁ。そうか、まぁベルメルシア様が解決して下さるんだったら」

「いや~あの男、最初からおかしいと思ってたんだよ」

「そうそう! 朝早くからゴソゴソと何か隠すようにしていたわねぇ」


 皆の口から次々に出てくるカオメドの不審な動き。その抱いた印象が話されるのを黙って聞いているエデの表情は、固い。


 発せられた言葉たちは真実を、語る。

 それは先程までかけられていたと思われる邪悪で不穏な“暗示”から皆が解放されたという証だと、確信した。


(旦那様が戻るまでは、私が。もうしばらく、様子を見なければ)

 そう心の中で呟いたエデは明るく心地良い声色で、大きく話す。


「それでは、皆さん。一年をかけ楽しみにされてきた服飾の祭典は、予定通り午後からの開始といたしましょう」


「あぁ、そうだな! おっと、早く準備しないと間に合わんぞ」

「ん、あらやだ、本当ね! 私たちはお食事の準備をしないと」


 淀んでいたその場所は明るい声と活気に満ち街並みは本当の姿を、取り戻す。そして年に一度の、素敵な祭典場所になるのだ。


 光輝く太陽はもうすぐ――真ん中の位置を、射すのであった。


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― 新着の感想 ―
[一言] エデ様の存在の大きさを改めて感じます(#^.^#)
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