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197.書物


 ノワが皆へあることを告げスピナの元へ向かったちょうどその頃。


 ジャニスティはクォーツへ「良い子でお勉強をしているんだよ」と伝え自室を出ていた。


 その足で彼が、向かった先は。


 ガチャ……キィー。


 所狭しと書物が並ぶ、書庫。


 そこは彼がベルメルシア家に来てからずっと独り静かな時間を過ごせる、場所でもあった。


 もちろん勉学を目的としているがその他にも本棚に置かれた詩歌や小説、戯曲の本まで様々な古書が保管されている。彼はこれまでに書庫にあるその半分以上は読み終えていた。


 コツ……コツ……コツン……――。


 何かを探しにきたわけでもなくただただ誘われるように此処へ来たジャニスティは、自身の身長よりも高い棚に集められた古書の間をゆっくりと、歩く。


 いつも来ているはずの書庫だが今、心身で感じる違った雰囲気に不思議と心が和らいでいた。


 コツ、コッ……。


「あぁ、そうだ。この棚にはいつも……何かを感じるんだ」


 そうジャニスティはこの場所でいつも、足を止める。誰かの気配や魔力、魔法がかっているわけでもない。それは「決して悪いものではない」と、通常では考えにくい根拠のない自信が、彼の心にはあった。


 しかしどんなに考えようと、書庫へ通う月日が過ぎようと。いつも感じる“安らぎの感覚”が一体何なのか? 皆目見当が付かないのだ。


 今日もその場所で見つめる先に今のところ、変わった様子はなかった。


(急いでいるはずなのに、な)


「何故、此処に来なければと思ったのだろうか。自分の感情が、よく分からなくなるな。そろそろ、行かないと――」


 いつもの通り書庫の奥まで行き戻ろうと振り返った瞬間にふと、ジャニスティの目に留まった、一冊の本。


(花に舞う……? 見たことのない本だ)


 紙を美しく束に重ね綴じた長方形の、冊子たち。


 開けば物言わぬ輝く言葉たちが(いざな)う様々な世界に、ゆったりと浸れるのだ。彼にとってその「文字を自由に目で追える自分だけの時間」に感じる心のゆとりは、新しい知識をより一層深めた。


「毎日のように来るが、初めて見た」


 本に触れる機会などなかったジャニスティ((ジャニー))はこのベルメルシア家に仕えてからのたった十年という月日で――賢智な人物となり得たのは、学ぶ喜びを知ることが出来たからである。


 パラッ――。


 そして今、躊躇(ちゅうちょ)なく開いた新しい世界。


 幸せを感じる瞬間。

 手に取ったどの本からも、ページをめくるたびにふわっとする古書独特の甘い香りが彼は、とても好きなのであった。


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