194.相性
エデとフォルの意思を確認したオニキスは、安堵する。
そしてエメラルドの指輪にそっと触れ、まるで亡き妻ベリルへ話しかけるように心の声を、呟いた。
「まぁ、しかし……引き寄せ合う運命に、あるのかもしれないな」
「ん? いかがなさいましたか」
声に気付いたフォルが少し顔を横に向け、尋ねる。
「あぁ、はは……いや、このベルメルシア家が持つ特別な波長と、サンヴァル種族との性質的な相性が、良いのだろうと思って――なぁ、エデ?」
オニキスが発した意味深な、言葉。
彼が何を言わんとするのかを瞬時に理解した、二人。特に珍しく、いつも固い表情ばかりをしている執事フォルも思わず目を細め、微笑んでいた。
「いえいえ、旦那様。滅相もないことでございます。我々種族は、昔も今も変わらず――この身は、ベルメルシア家の日々安全を守ることに捧げております」
「有り難い限りだが」
眉尻を下げ少し心配そうにオニキスは、応える。
「それ以上は……今後も忠誠の心は変わらず私、そして“我が息子”ジャニスティ含め、永遠の務めであり、それが幸せなのですよ」
そう話したエデは「あとは旦那様の判断に」とまた彼も珍しく嬉しそうにフフッと笑い、馬車を加速させた。
◇
その頃、ベルメルシアの屋敷では。
――カッカッカッ……バタァーン!
「ノォ~ワ~、いる?」
ビクッ!!
((奥様っ!?))
お手伝いたちの顔は驚きの色を、隠せない。身体が一瞬にして固まったが、しかし。皆はハッとしすぐに仕事を再開する。
上機嫌で食事の部屋へ戻ってきたのは客人カオメドを見送ったばかりの、スピナである。きょろきょろと部屋の中を見渡しすぐにノワの姿を見つけ彼女へ、近付く。
「いた、いたぁ~。私の可愛い、ノワちゃん。よしよし、んっふふ! お茶会の準備は、着々と進んでいるようねぇ?」
さすがベルメルシア家のお手伝いたちである。どんなに理不尽で不明瞭さを感じたとしても受けた命令は速やかに遂行し、終わらせる。そう、真剣に慌ただしく動きまわるお手伝いたちの様子を見たスピナは、ニヤリ。
そして全身で喜びを表すように両手を広げノワへ、命じる。
「そうそう、ノワ。私、これから街へ行こうと思うのよ。いつもの馬車を呼んでくれないかしら?」
加えて「昼食はいらないから」と部屋中へ響く声で、話す。
「はい、かしこまりました。奥様」
あれからすぐにお茶会の準備を指揮し始めていたノワは表情一つ変えることなくスピナの言葉に、答えていた。




