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191.誠実


「今や我が息子と言っても過言ではない、ジャニスティの事で……」

「どうした? エデ。ジャニスに……何かあったのか」


 今までにないエデの話しぶりに一気に表情を曇らせ心配そうに尋ねたオニキスは、横目でフォルの顔を(うかが)う。その視線に気付いたフォルが、口を開く。


「聞きましょう。ジャニスティ様は私共にとっても、大切な御方です」


 オニキスにとっても頼りになるその低い声は、(フォル)だ。それを皮切りにエデは一つ息を吐くと、話し始めた。


「ご存知の通り、ジャニスティはあの“終幕村”で、壮絶な日々を生きた経緯があります。そんな冷酷な過去を持つ彼は今、恐らく初めて感じる温もりと、穏やかな心情に戸惑っております」


「心情……か」

 不透明な言葉。その内なる心を複雑な想いで聞き入るオニキスは眉を下げ困り顔で、微笑む。


「はい、それゆえ様々な失礼があるかもしれませぬがどうか、ご配慮いただけますよう深く、深く。お願いいたします」


 エデは「このような場で申し訳ありません」と言いつつも声からはジャニスティを護ろうとする親心がはっきりと表れ、見て取れた。


「はっはは、そんな改まっての謝罪など、不要だよ。そう、私にとっても彼は、本当の家族のようで……心から大事な存在なのだからね」


 ベルメルシア家当主の困り顔は爽やかな笑顔に変化し「なぁ、フォル?」と信頼する執事の考えを、求める。


「えぇ、私もそう思います。ジャニスティ様はお嬢様付きとしてだけでなく、旦那様の為にも大変尽力され、その上、亡きベリル様と同様の、魔法能力もおありになる。ですので――――コホンッ」


 余計なことを言いそうになったフォルは何事もなかったように咳払いをし、ただ一言「ご心配なさるな」と言葉を添える。


「はい。旦那様、そしてフォル様までも。お心遣い、本当にありがとうございます」


 正直で誠実な二人の言葉にエデは被る帽子を少し上げ、前を向きながらも感謝の気持ちが伝わるよう、努める。


「いや、しかしエデ。これはやはり助けられているのは、私の方であろう」

 オニキスは優しい笑みを浮かべ斜め前に座るフォルと目を合わせるとそう、口を開いた。


「私自身は、ベルメルシアの血を継いではいないが。その心は忘れず、名家の名に恥じぬようにと、常にこの胸深く刻んでいる。それでもベリルが突然この世を去ってすぐは、私もこの世から消えてしまいたいと、何度思ったことか」


「…………」

 静かに聞くエデの顔が少しだけ、横に動く。


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