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190.憶測


――アメジストは偉大なる母が持っていた大事な力を受け継ぐ能力が自分には無いのではないかと、心の中で自身を責め続けていた。


 その思いに父オニキスは原因の一つに、一部の者たちからの心無い声だと、考えた。周囲の冷たい言葉を愛娘の心から取り除こうと彼は出来る限り、アメジストへ能力など気にしないよう「自分は自分だ」と(さと)した。


 そして『自分の信じるように生きなさい』と話し、気にかけてきたのだ。



 軽快な馬を撫で走らせるエデは予期した通り、オニキスが黙り思い悩んでいることに気付いたがそのまま、話を進めていく。


「旦那様。私の直感とは、“()()()()()()クォーツ様”の魔力が、アメジストお嬢様へ何らかの影響を与え、力の開花へ導いたのではないかと考えます」


「なるほど……」

「うむ、確かに。考えられなくもない」


 一言呟き、黙りこくるフォル。

 オニキスも自分の顎に右手を当て同意し、考え込む。


 エデの言う通りある日突然、能力が無いと思われていた愛娘の手に光が見え、その力を開花させたことにオニキス自身も違和感を覚えまた、とても不思議な感覚を抱いた。


――それはアメジストの力が目覚める原因や事象が何かしらあったのではないかと、思ったからだ。


 その話を聞くためオニキスは食事の部屋を出る際、スピナに悟られぬよう「本日夕刻に話をしよう」と、アメジストへ耳打ちしていたのである。


 しばし流れる、沈黙。


「あぁ、お二人とも。そう悩まないで下さい、これは、私の勝手な思い込み――憶測の域を出ませんのでね」


 その声でハッと我に返る、オニキス。馬車内には再びふわりと心地良い風が、舞い込む。


 愛娘が放った温かな光はスピナを一瞬でも、鎮圧。あの瞬間から「何故」と考えていた彼には、エデの話が妙に説得力がありまるで、欠けた物が見つかったような安心感を得る。


 そして心から、納得をしていた。


(どちらにせよ、アメジストに話を聞かねばな)

「エデ、ありがとう。今、この時に君の考えを聞けて良かったよ。心より感謝を――」


 相変わらず哀愁漂うその背中に向かって軽く会釈をしながら微笑み、お礼を言う。


「いやいや、しかし……そうですな。このようにフォル様もご一緒でお話出来る、せっかくの機会です」


「……」

 名を呼ばれフォルも目線を前へ、向ける。


 少しだけ笑むような声でエデは、言葉を選びながら「これからお話する件については、私情を挟む様で大変恐縮ですが……お許しを――」と、話を始めた。


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