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186.信友


「私はね、フォル――」


 カッポカ、ポカポカポ……。


 馬の足音が軽く跳ねるような安定のリズムで道を進む中、緊張感で張り詰める馬車内の空気。それを優しく落ち着いたオニキスの声が、変えてゆく。


「エデも……君たち二人は、いつも私の味方でいてくれる。仕事だけでなく精神までも支え守り、力になってくれる。私は心から、感謝しているよ」


 ベルメルシア家当主として協力しここまで歩んできた――それは、(とも)として。彼らへ感謝の意を伝えるオニキスの言葉は穏やかな水の流れを思わせるようにゆっくりと、二人の心に沁み入った。


「なんと……身に余るお言葉をいただき、光栄に存じます」


 執事でありまた、アメジストにとって祖父のような存在でもあるフォルにはオニキスの想いが強く伝わり濃いオーラのような色が、視えてくる。そしていつも彼は多くを語らず誰に対しても謙遜する心を持ち、発する言葉は控えめだ。


 しかしその心奥にある温かな雰囲気は、変わらない。


「私もです、旦那様。言葉では言い表せないが、貴方様が命を懸け守るベルメルシア家へ私は、返せない程の恩があります。そして何より貴方様には一層の……本当に心から、感謝の念に堪えません」


 そう話す御者のエデの気持ちもフォル同様――魔力が無くともオニキスには人を惹きつける人柄や話術、その強い責任感と何より才能と実力を兼ね備えていることを、知っている。


「フォルは、いつも私の片腕となり影ながら動き、支えてくれる。そしてエデには、私だけではなく娘やジャニスの事も日々、見守りを任せきりだ。きっと私一人では、ここまで上手く生きてこられなかったと思うのだよ」


 そう言いゆっくりと目を閉じ今一度、感謝を伝えたオニキスは微笑む。


「ありがとうございます、旦那様。少しだけ昔話をしても……」

「あぁ、もちろんだよ! エデ」


 彼の言葉に応えるようにエデが自身の種族について触れ、話し始めた。


「かつては“血塗られたサンヴァル種族”と言われた私たち種族を、ベルメルシア家の先々代は気にもせず、それどころか快く受け入れ、その上ベルメルシア家専属の御者としての永久契約を下さった」


 馬の手綱を優しく操りながら背を向けた状態で話すエデからはどこか、哀愁漂う。


「そのお陰で私は、オニキス様――このベルメルシア家当主として辣腕(らつわん)を振るう貴方様とも、こうして出会うことが出来たのです」


 その背中に目を細めながら聞き入るオニキスは彼には見えないが、頷いた。


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