184.意志
「おはようございます、旦那様」
「やぁエデ、おはよう。調子はどうだい? アメジストは今日も元気に学校へ行ったかな」
「はい、無事に」
オニキスは爽やかな話しぶりで朝の挨拶をする。その様子から送迎中に起きた出来事をまだ知らぬことが窺えた。
いつも通り変わらない彼の言葉を聞いたエデは、思う。
(祭典とクォーツの件。どうやらジャニーは、何らかの理由で二人への報告ができなかったのだな)
挨拶を終え顔を上げるエデの表情がいつもと違うことにオニキスは気付き「何かあったか?」と尋ねた。
するとエデの顔が、強張る。
「旦那様、フォル様。極めて重要な報告がございます」
「エデ、少しだけ待て――フォル……」
エデの真剣かつただならぬ空気に軽く左手を上げると彼に話すのを待つよう、命ずる。
続けてオニキスが執事フォルへ目線だけを向け言葉少なに指示したのは、警戒の合図。それは三人がいる領域内に立入る者や影から監視する者、会話を聞いている者はいないかという、気を張り巡らし捜索をすることである。
あの怖いもの知らずなスピナですら苦手意識を持つフォルの魔力は流石であり、驚異的な速さで任を完了。
それはオニキスの言葉から、約一秒後のことであった。
「周囲に危険はありませんが……エデ様。出来るだけ簡潔に願います」
「承知しております」
射るような視線でそう伝えるフォルの強い口調を静かに受け止め答えたエデ。このベルメルシア家で長く従事する二人にとっては通常の会話だ。
前々世代当主たちにも仕え心からの忠誠を誓ってきた。そしてベルメルシア家を護ることが自らの宿命だと思い生きる彼らは常に協力し合い、同じ志と目的を持つ。
エデとフォルには何が起ころうと揺るがぬ意志と信頼関係が、築かれていた。
「よし。それでは改めて、エデ。報告を頼む」
「かしこまりました」
オニキスの声にエデは頷きゆっくりと、話し始めた。
本日午後より街で開催される服飾の催事について――時間が早まりその上、予定される場所の範囲変更が許可なく行われていること。
そしてあの痛ましい事件のあった現場――レヴシャルメの一族が住んでいた屋敷近くを通り起こった、異常状態。それによりクォーツが一族の生き残りであるとほぼ、確信したということ。
エデは送迎途中に起こった出来事の全てをオニキスとフォルへ、簡潔明瞭に話す。
「以上、ご報告申し上げます」
そう最後に深く丁寧なお辞儀をしたエデの姿はとても、落ち着いていた。
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ありがとぉございます♪
更新にお時間がかかってしまい、
申し訳ありません(*´Д`)




