18.部屋
ギィー……。
昨夜の大雨のせいか扉を開く音がやけにきしみ、それが余計に不安を煽る。
そんな気持ちを忘れさせてくれるような羽ばたきで、ふわふわと動くレヴシャルメの子。そして引っ張られるがまま進むと、ついにジャニスティの部屋に入ってしまった。するとその子は急に振り向き声をかけてきた。
「んなふ!」
「え、えっ?」
(何か話しているけれど、分からない)
なぜ言葉が話せないのだろう? それとも種族で言語が違うのかしら? アメジストが心の中でそう呟いていると、手に柔らかく温かいものが触れた。見るとその子が手をギュッと握ってきていたのだ。そして奥の部屋へ向けて強く引っ張り始めた。
「あ、ちょ、ちょっと待ってぇ!」
その子は身体が小さいのにとても強い力だ。アメジストは驚きとこんなに回復している事への喜びを感じていた。
可愛いレヴに手を引かれて。ふと気付くと、その行く先にあるのはジャニスティのベッドのある場所――昨夜、復元魔法の準備をした部屋である。
(どうしよう……私が此処に来た事がジャニスに知れたら、約束を守れない子って怒られちゃうかも)
しかしそんな彼女の気持ちなどは知らないその子は、ぐいぐいと手を引っ張り連れて行く。
とうとうベッドの部屋の前、そっと中を覗いた。そこでアメジストが見た光景は――。
「どうしたのジャニス、しっかりして!」
ジャニスティはピクリとも動かずにベッドに横たわっていた。
「にぅ」
アメジストは懸命に手を引いてきたその子が何を伝えたかったのか? この時に理解したのである。
「そうだったの。お兄さんを助けてって言っていたのね?」
するとその子はジャニスティの眠る横にちょこんと座り、おでこに手を当てている。その手からは少しだけ、微弱の光りが見えたような気がした。
「……ん、あぁ君か。夢……を見た」
ジャニスが微かに聞こえる小さな声で話し始める。それを見たアメジストは冷静さを失い、思わずジャニスティに飛びついた。
「ジャニス?! 良かった、目が覚めて。こんなになるまで無理をして! 私、一瞬でも……とても、とっても心配したのよ」
無事で良かったと涙を流し、彼の手を握るアメジスト。
「あぁ、お嬢様の声……温もりまで。もう……私も、駄目か」
まさか今此処にいるはずのない彼女の声が聞こえ、幻聴か? とフッと笑い自分の死を予感してしまったジャニスティ。
「私は此処に……傍にいるわ!」
彼女は手をギュッと握り直し、彼に再び声をかけた。




