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165.密事


「ス、スピナ様?」

「やぁねぇ~、オグディア。この意味、お分かりにならない? おほほ」

「参りましたねぇ、僕は頭がよくないので。そうだ! やはりここは賢さと優れた頭脳をお持ちの貴女様の教育を――僕はスピナ様お話を聞きたいのです。いや、ぜひ! 教えて下さい!!」


 カオメドはただその秘め事を知りたいだけなのか。それとも別の狙いがあるのか? 突然子供が教えを乞うような口ぶりで可愛く笑い片膝を地面に着けるとスピナの手を握り、甘える声で彼女の名を呼ぶ。


「僕の崇敬(すうけい)する、スピナ様」

「あら? んもぅ、仕方がないわねぇこの子は。よ~く、お聞きなさい」


 カオメドは相手の心を過剰に持ち上げ機嫌を取る能力に()けている。


 褒められ持ち上げられることや何より、優越感に浸れる。それを最高の幸福だというスピナの性格も、熟知していたのだ。


 スーッと扇の天から覗いた彼女の目は(いや)らしくまた“愛の言葉を囁き合った”はずの相手(カオメド)にさえ、隠した口元は(さげす)むような笑みと、口調で話し始めた。


「代々この家って血筋で受け継がれるのよ。だから、このベルメルシア家の前当主は、オニキスの元奥さんでね」


「ほぉ! なるほど、それで?」

 自身の手に置いたスピナの手を優しく撫で、興味深そうな口ぶりで答えたカオメドは彼女の気が変わらないように機嫌を(うかが)い、続く話を促す。


「それはそれは美しいお嬢様でね……ベリルという名よ。あなた、知ってる?」


 少し間を置いたカオメドは小さく「存じ上げております」と答えるとスピナの手の甲に触れるか触れないかという程の柔らかいキスをし、笑顔で彼女を見つめる。


「ふふ……ベリルはね、(わたくし)の事を『スピナお姉様』と呼んでとても慕ってくれて、よく花言葉の話をしたものよ。ほんっと愛らしくて、(うらや)むような美貌。そして誰よりも――“()()()()()()”わ」


「おぉ~! その輝く憎しみの眼光!! んあぁ良いですね、魅力的だ」

「んっふふ、だからオグディアの事、好きよ――」



(何なんだ!? あいつ(スピナ)といい、この男(カオメド)の返しといい)

「狂っている」

 二人の会話を聞くジャニスティの心は今にも憤怒(ふんぬ)する勢いであるが、しかし。恐らくエデの魔法が効いておりいつも通りの理性を保つことが、できていた。


(まだだ、まだ。何としても最後まで話を……(こら)えるんだ)

――フゥ……。


 ここまできて、スピナとカオメドに見つかるわけにはいかないと軽く深呼吸をしたジャニスティは苛立つ自分と戦いながらもじっと息を潜め、隠れていた。


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